第6話:スぺリーナ

 その後の道中は順調に進み、二人はスぺリーナに到着した。

 外壁に囲まれたスぺリーナには東西南北に一つずつ門が築かれており、そこで検問が行われている。

 周囲の村を結ぶ中継地点とあって門の前には毎日のように列ができている。二人が到着した南門も例に漏れず長い列が出来上がっていた。

 最後尾に並びゆっくりと進んでいく列について行きながら、ジルはここでもメリの説得を試みていた。


「なあメリ? 今からでも遅くないから、パペル村に戻ったらどうだ?」

「戻りません。私は冒険者になって自立するんですから」

「でも、両親は反対なんだろう? 今頃、心配していると思うぞ?」

「スぺリーナに行くことは伝えているし、私の意思もはっきりと伝えているから大丈夫よ」

「せっかくの二級だぞ、もったいなくないか?」

「二級や一級の冒険者だっているんだから、もったいないとかないわよ」

「……はぁ」


 どうしてこうなってしまったのか、ジルは溜息しか出てこない。

 ここまできたら説得も意味がないと判断し、今後について考えることにした。


「メリは冒険者になって、何をするつもりなんだ?」

「何をって……普通に依頼を受けて生活していくつもりだけど?」

「いや、何かやりたいことがあるから冒険者になるんじゃないのか? ただ生活をするだけなら、真面目な話で店を構えて生活した方が危険もないし安定した生活を送れるだろう」


 ジルの言っていることは正しかった。

 冒険者とは様々な依頼をこなして報酬を得ている。

 依頼の内容も様々だが、その主になっているのが魔獣討伐だ。

 魔獣にも等級が決められており、道中で討伐したブラウドは下級にあたる。

 人と魔獣は相容れない存在だ。人は魔獣を殺し、魔獣も人を殺す。

 だからこそ討伐することが必須であり、危険を冒す冒険者には相応の報酬が支払われる。

 生活のためだけに冒険者になるというなら、三級のジルよりも選択肢の多いメリがわざわざ冒険者を選ぶメリットがどこにもなかった。


「……鈍感」

「なんだって?」

「なんでもないわよ!」

「い、いきなり怒るなよ!」


 何故か怒られてしまったジルは困惑顔を浮かべる。

 メリが冒険者を選択した理由なんて、一つの理由しかない。

 それに気づかないのだから、鈍感と言われても仕方ないだろう。


「そろそろね!」

「話を逸らすなよ!」

「うるさいわね! もうすぐなんだから黙ってて!」


 そっぽを向かれてしまい、仕方なく口を閉じるジル。

 その後は無言が続き、ようやく列の先頭までやってきた。


「ようこそスぺリーナへ! 君たちはどういった用件で訪れたのかな?」

「冒険者になるためです」

「私もです」

「おっ! もしかして儀式を執り行ったのかい? 周囲の村には冒険者ギルドがないところもあるからね。それじゃあ、これが滞在許可証だよ。スぺリーナを拠点にするつもりかい?」

「今はまだ分かりません」

「そうか。ここには君たちのような若い冒険者志望の子たちが多いからね。もし拠点にするなら、詳しいことは冒険者ギルドで聞くといいよ」

「ありがとうございます」

「改めて――ようこそスぺリーナへ!」


 衛兵の男性は慣れたように色々と教えてくれた。

 そして、会話の中にあった冒険者志望が多いという言葉に、ジルは少しだけ胸が高鳴った。

 様々な冒険譚を作り上げたいと思っているのは自分だけではないと、そう思えてきたからだ。

 もちろん中には生活のために冒険者を選んだ人も多いだろう。

 それでも、冒険者に憧れを抱く者もいるのだろうと信じたかった。


 門を潜った後に広がる光景に、二人は目を見開いた。

 大きな建物が何軒も連なり、軒下では子供たちが大きな声を出して遊んでいる。

 通りには多くの人が行き交い、周囲の村へ向かう商人が馬車を引いて進んでいく。

 そして何より、様々な武器を持った冒険者の姿がジルの目に飛び込んできた。

 パペル村で暮らしていたら一生目にすることのなかった光景に、ジルの心は躍っていた。


「ここが、スぺリーナか!」

「凄いね! 大都市はもっと凄いのかな!」

「きっとそうだ! よし、さっそく冒険者ギルドに行って登録するぞ!」

「うん!」


 先ほどまでメリを説得しようとしていたジルなのだが、気持ちが高揚したことですっかり忘れてしまった。

 二人は衛兵の男性に聞いた冒険者ギルド目指して、通りを真っすぐに進んでいく。

 とても目立つ建物だからすぐに分かるだろうと言われていたのだが――まさにその通り、正面にとても大きな建物が見えてきた。


「ここが、冒険者ギルド!」


 大きな門の上には冒険者ギルドを示すエンブレム――盾の上に二振りの剣が交差している看板を掲げた建物に到着したのだった。

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