第10話 声


 ゴールとなる所には、スタート地点より多くのものがいたにも関わらず、私には彼らの声が全く聞こえなかった。足元を、とにかく最後に転ばないように細心の注意と、最高の速度を保たなければいけないと思った。


「やって来ている! 」

その感覚だけがあって、自分の激しい息遣いだけが聞こえ、更に喉が渇いているにも関わらず、私は自分に向かって声を出した。


「ここまで来て負けるなど考えたくはない、絶対に勝たなければいけないのだ。この先歩くことができなくなろうとも、そんなことは関係ない。今だ、この瞬間、気を抜くな、行くんだ、早く!! もうこの計画が誰のものだろうと関係はない、この勝利は私が勝ち取るんだ!! 」


後ろを向く暇などはない。ただゴールとなる所には色々な花が一本の線を作っていて、その美しささえ、その時の私には邪魔な感じにまで思えた。


そしてやっと聞こえてきたのは

「急げ! 急げ!!! 」

「そうだ!! どうせならお前が勝ってくれ! 」

「がんばれ!! 」

その声がやはり力になったのだろうか、私は今までで一番早く歩けたような気がした。そしてもう感覚の亡くなった私の足が、ゴールの花を散らしたとき、私は初めて後ろを振り返った。 


 すると私の少し後ろに、止まったままのあのウサギがいる。ペタンと地面に座り、激しく息をしているようだったけれど、それはすぐさま見えなくなった。

 私の周りにはたくさんのカメの仲間が、私も驚くような速さで、集まって来た。

「凄いぞ、凄いぞ、勝てるなんて思わなかった! 君は本当に素晴らしいよ」

「おめでとう、君は我々カメの誇りだ!! 」

「すまなかった、今まで馬鹿にして。本当におめでとう」


カメの周りにはさらに他の動物たちが集まり、私の視界は完全に遮られた。

そう、それから私は、結局一度もあのウサギを見ることはなかった。


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