第9話 黒い翼
水は所々に置いてあり、それを飲むときにだけ立ち止まり、私は本当にただ進んだ。歩みは遅くなるどころか、どんどん早くなっていったが、やはり水を飲むだけでは足りないのか、体のいたるところが裂けて、血がにじんできているのを感じていた。
「痛いなどどは言ってはおられない」
私も想像はついていた。
ウサギの昼寝はきっともうそろそろ終わってしまう、そうすれば今まで私が道に落としてきた汗も、少しの血も、すべてが走り踏まれ、かき消されてしまう。
そして私を軽々と追い抜いた時、きっと、見るもおぞましいような笑みをウサギは浮かべ、私だけではない、きっと他のカメたち、その子たちにまで、暴言を投げつけるだろう。
「嫌だ! そんなことはあってはならない! 絶対に」
私は道を進んだが、また道の端に水があった。
「もう、飲んでいる暇はない」
それには見向きもせず、私が歩いていると、急に
「バシャ」っと空から水が降って来た。
見るとカラスがあの器をつかみ、私の上に雨のように降らしてくれたのだ。なるべく私の頭にかかるようにしてくれた、このカラスに、私はきっと命の終わるまで感謝をするだろうと思った。
「ありがとう、カラス氏」
「急ぐんだ、そろそろあいつが目を覚ましそうだ」
小さな声で囁いたので、近くにいた小鳥たちはただカラスが
「真剣なレースに水を差すようないたずらをした」
と鳴いて、観衆の方に飛んで行ってしまった。
「誤解されてしまったね」
「いいんだよ、慣れている。我々の賢さはそう理解されるものではないから。さあ、この丘の向こうだ! がんばれ! 」
優しい黒い翼は飛び去り、私は急いで小さな丘に登った。その先には、一本の大きな木と、たくさんの動物たちの姿が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます