第3話分の過ぎた言葉
このあたりには、一羽の有名なウサギが住んでいる。彼を狙う者すべてをことごとく手玉に取り、堂々とした姿でみんなの前に王のように君臨している。
逆に私の前にいるフクロウや狼たちは、そういつも我々の前に姿を現さない。夜に動くためもあるし、目立つところになどいたら、彼らも我々を「獲ることができない」からだ。
ウサギも最初は我々「食べられる側」の英雄だった。
私も「すごいな、君は」と声をかけたが、そのころにはもう彼は
英雄から暴君のようになっていた。足の遅い私たちカメをバカにして
「お前たちのようなのろまな生き物が、どうして生きているんだ? 」
私もそれには腹立たしさを感じたが、年配の者は平然としてこう言った。
「何年かに一羽はあんなウサギがいるんだ。まあ今は我慢して見ているがいい。ウサギの寿命は我々カメに比べて短い。短いということはすぐに年をとるということだ。体が急に動かなくなり始めたら、あのウサギはこちらが目を覆いたくなるような無残な姿にされる、そうなるのだから」
年をとりそのことを見知っているものはそうだろうが、我々のように若い者にとっては、とにかく終わることのない悪口は不愉快だった。
「英雄であり続けることは難しいことなのか」
と思うほどにウサギは他人を馬鹿にすることを止めない。私が花畑になるべく早く行くようになったのもこのウサギの事があった。彼はこのあたりを走り回っているから、小さなことも良く知っていて、もし私のやっていることを知ったら、最高のからかいの材料となってしまう。それが嫌だから彼が長く眠っている朝に出発して、昼前に帰ってくることにしたのだ。
彼の味方は今でもいるが、敵とは言わないまでも「厄介者がいなくなってくれれば」と思っている者の方が多いように思う。
ではこのウサギに「逃げられた上、何度もバカにされた者たち」の心はどうなのか。それこそここにいるすべての力を合わせれば、彼を捕らえる事など簡単なのではないかと思うのだ。
「ハハハ、カメ氏。君の考えていることがわかるよ。我々全員でかかれば、あのウサギを食べることができると言うんだろう? だがもう我々は餌としての彼には興味が無いのだ。あれだけ口も態度も悪い者を胃の中に入れてしまったら、こちらまでおかしくなってしまいそうだからね」
キツネは落ち着いたままそう言った。
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