第42話:得体の知れぬ魔女

「え、な、なんでわかったのよ!私の魔法は完璧なはずなのに!」


夢の中で聞いた妖精の話と一致する。普通の魔法使いは魔法使いになれる条件を知らない。


だから彼女が元々は男であったということは俺しか知ることができない事実なのだろう。


「やっぱりそうか、上手くごまかしてたみたいだが俺の目までは誤魔化せないんだぜ?」


さっき言われた彼女のセリフをそのまま返してやる。


これで俺がなぜ気が付けたかをうやむやにできる。


「お願い!このことは誰にも言わないで!なんでもするから!」


「ん?いまなんでもするって・・・いわれてもなぁ・・・」


「お願いお願いお願い!!」


彼女は涙目になりながら俺に飛びついてくる。爆弾が押し付けられて男としての性さがが呼び起されそうになる。


(こ、これで元は男だったとはな・・・これもうわかんねぇなぁ)


男性と女性では魔力の波のような物にに若干違いがある。先程凝視した時は完全に女性のそれであったのだが、そこまで偽装できるものなのだろうか?


「わ、わかったから!言わねぇからとりあえず落ち着けって!」


「ホント?誰にも言わない?」


「い、言わねぇって!っていうか言っても信じてもらえないだろ!」


「そ、それもそうね・・・」


そういわれてやっと落ち着くことができたらしい。下を向いて少し考えた後に口を開いた。


「それじゃあ同じ魔法使い同士仲良くしましょ♪私は神代晶かみしろあきらっていうの。晶でいいわ、よろしくね♡」


「あ、ああ・・・俺は岩﨑慧だ、よろしく」


「慧・・・けーちゃんね!うふふっ♡」


そういって一々腕に絡みついてくる。


好意は嬉しいんだがなんというか、とても複雑な気分だ。


「あんまりくっついてくんなよ!」


「いいじゃない?どーせけーちゃん付き合ってる人とかいないんでしょ?」


「どーせってなんだよ!確かに今は恋人とかいねぇけど!」


「ならいいじゃない、そうだわ!これからホテルにでもいかない?助けてくれたお礼をして、あ・げ・る♡」


思い切り噴き出す。いいのかこれで?


いやよくない。たぶんよくない。きっとよくない。ああ、よくないとも。


「確かに君は絶世の美女だ・・・だが男だった!」


そう高らかに宣言すると晶は俺の腕から手を放してその場でうなだれている。


「・・・言わないって約束してくれたのに・・・グスン」


「ああっ?!いや!待て!もう絶対言わんから!泣くなって!」


「なんてね!ひっかかった?」


完全に遊ばれている。なんというか、もう色々と諦めるしかない気がしてきた。どうにでもなれ。


「と、とりあえず俺は仕事が終わったから事務所に帰るところだったんだ、人を待たせてるし」


「待ってるって誰?まさか・・・オンナ?」


はたから見れば 、恋仲の男女がじゃれあう雰囲気から一変、場が凍りつくかのような空気が満ちる。なんだか雲行きが怪しくなってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る