第24話:夢見る少女は止まらない


2月2日14時30分頃、事務所応接間。俺は依頼人と話をしていた。


今回の依頼の内容はこうだ。来年度中学二年生になる13歳の一人娘、五十嵐いがらしはるかが家出をしてしまい、一週間の間消息不明なので探し出して欲しいとのことだ。


事件や事故に巻き込まれたのではなく家出だと話しているのは娘の部屋に直筆のメモが残してあり、そこには「私はピアノを続けたい。お父さんとお母さんにはわかってもらえない。だから家出をします。探さないでください」と、書き残されていたからだ。携帯電話や衣服、財布などは持ち出されておらず、ほぼ手ぶらに近い状態で家出してしまっているらしい。


友人や親戚に連絡をしたが手掛かりはなく、警察に捜索願を出したとのこと。


それでも目撃証言なども一切ない。残されたメモや遺留品などを受け取る。


メモには力強い文字で先程聞かされた言葉が書き込まれている。


母親が言うには家出をした理由は、長年続けていたピアノ教室を辞めさせ、進学校に入学できるように学習塾に通わせようとしたからだそうだ。


娘は音楽関係の進路に進むつもりだったらしい。そこで意見が対立してしまい、両親を説得することができなかったのでやむを得ず強行手段にでた、ということらしい。


母親は娘のことを考えずに自分たちの意見を押し付けてしまったことをとても後悔していた。




親という者は子供に自分たちの意見を押し付けがちなものである。子供には子供の意見や主張がある。それを捻じ曲げてしまうのは酷な話だ。


大切な一人娘が居なくなった事でそのことを改めて思い知らされたらしい。これからは娘の意見を尊重してあげたい、だから早く帰ってきてほしいのだと―




一通り話を聞き終える。依頼人の母親がよろしくお願いしますと深々と頭を下げている。帰りを見送ると杏莉さんが話しかけてくる。


「なにかわかったことはありますか?」


「ん~・・・現状言えるのは娘さんの単独の行動ではないんじゃないかって事ぐらいかな。なんの準備もなしに中学生の女の子が一週間も自宅に帰らないってのは色々な面で不可能だろ。そうなると誘拐の線を疑うわけなんだが、メモには脅されて書かれたような感じはない。強い意志で自分で書いたって感じだ。ってことは自分の意志で家出をしたのは事実だが、それを支援している第三者がいるのかもしれないと思ってな。そいつがどこかに匿っているのかもしれない。まぁそうだとして動機が全然わかんねぇけどなぁ・・・」


実際にメモには五十嵐遥の思念が残っていた。両親がわかってくれるまで戻らない、といったような強い意志を感じた。


そんな少女の意志を逆手にとって裏で暗躍しているような人間がいるのではないか、というのが俺の考えだ。


「さすが慧さんですね・・・もうそこまで考えているなんて」


「いやぁ、証拠とか確証は無いしなんとなくそう思っただけなんだがな。とにかく調査だ。なんにせよ現状じゃ情報が足りねぇ」


「はい!頑張ってくださいね!」


「おうよ!このオレサマに任せろ!」


自分の胸を右手の親指で指さしながら自信満々に答え、俺は事務所を出た。

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