第25話:バニシングガールズ

いつもどおり上空から思念を探す。この捜査方法にもだいぶ慣れてきた気がする。


(これは俺が魔法使いだからできる芸当だが、一ノ瀬遼太という人物は一体どのような方法で調査してたんだろうなぁ)


ふとそんな疑問が浮かび上がる。地道に足で稼ぐような調査をしていたのかと思うとぞっとした。とても俺には真似できない。


五十嵐遥の自宅から円を描くように くまなく探っていく。しかし彼女の思念の痕跡は一向に見当たらない。


調査を始めてから4時間。念入りに探したはずなのだが全く気配を感じ取ることができなかった。まるで一瞬で消えてしまったかのようだった。


(こりゃまいったな。だいぶ魔法の技量は上がってるはずなんだが収穫ゼロか・・・)


これ以上この方法で調査をしても らちが明かなそうなので今日のところは引き上げることにする。


ガックリと肩を落としながら事務所に帰る。杏莉さんが笑顔で出迎えてくれるのが少し心苦しかった。


「慧さん、おかえりなさい。・・・あの、どうかしたんですか?」


「このオレサマに任せろと言ったな・・・あれは嘘だ・・・。ちょっとぐらい情報を得られると思ってたんだが、なんもみつかんなかったわ」


「う~ん、まだ初日ですし、だいじょぶですよ」


そういって晩ご飯を準備してくれている。内心かなり落ち込んではいたが杏莉さんの料理が目の前に運ばれてくるだけでだいぶ立ち直ることができた。


食事を終えると杏莉さんが口を開き話し始める。


「ちょっと気になることがあったので慧さんがいない間に調べてたんです。一ヵ月ぐらい前にもテレビで中学生ぐらいの女子が家出をしたと取り上げていた気がして。調べていてわかったんですが一ヵ月前ぐらい前と二ヵ月ぐらい前に同じように家出をしている少女がいたみたいです」


「マジで?」


「はい、どちらも今回の依頼と似たような状況だったらしくて現在も行方はわかっていないそうです。他にも家出をしたという記録はあったんですがそれはすぐに見つかったらしくて。この二件は今回の依頼となにか関連性があるんじゃないかと思ったんですが・・・」


杏莉さんから資料を見せてもらう。


中学生の少女の家出、メモが残してあった、荷物などはほとんど持ち出されていない。確かに類似点が多い。


「ん~確かに似てるな、今回の家出の内容と。杏莉さんはこの3人の家出が同一犯によって仕組まれた物だと考えてる訳だな?」


「はい、そうなんです。慧さんが出かける前に話していたことが事実だと仮定すると、この3人の家出はどこかでつながってるんじゃないかって」


流石は名探偵の娘といったところだろうか。おかげで今後の調査の方針が出来上がった。


拳を握り、親指を立てて杏莉さんのほうへ突き出す。


「杏莉さん、グッジョブ!正直普通に探しても見つからなそうだったからこの情報はかなり役立つかもしれない。ありがとな」  


「いえ、調べてたら偶然・・・捜査の協力ができてよかったです」


杏莉さんは少し照れながら話している。そんな杏莉さんのひざ元に陸がピョコンと乗っかってくる。彼もまた、褒め称えているつもりなのだろうか?


「そういえば親父さんの残した資料の中にも少女失踪だとかのファイルがあった気がするな」


確かにファイルにはそのような事件がまとめられていたはずだ。


杏莉さんは困った表情をしながら話し始める。


「確かにありましたね・・・。今回の家出の件となにか関わりがあるのかもしれません。ただ二ヵ月以上前の事件なので父も知っているはずなのですが、父はその事件の事はなにも話していなかったんですよね」


杏莉さんの父親、一ノ瀬遼太は正義感あふれる名探偵だ。


書斎には過去に解決した事件もファイリングされており内容は連続殺人、誘拐、強盗等、多岐にわたっていた。


どれも警察が手を焼いていた難事件だったが捜査を協力して事件を解決していたらしい。


本当に底知れない人物だ。


そんな人のことだ、この事件を調べていても不思議ではなさそうなのだが事件の概要以外は特になにも残されていなかったらしい。


「う~ん・・・わからん!とりあえず明日は杏莉さんが調べてくれた資料を元に、そっちの家族に事情を聞きに行ってみるよ」


「はい、なにか手掛かりが見つかるといいんですけど」


「まぁなんとかなるさ!このオレサマにまか・・・いや、なんでもねぇ」


危うく同じことを繰り返すところだった。立てかけたフラグを心の中でバキっとへし折る。


「ふふっ、慧さんならきっと見つけることができますよ」


屈託のない笑顔、なにも疑う事のない瞳で見つめられる。


そんな顔で見つめられると流石に色々と困る。


「は、ははは・・・ま、まぁ続きはまた明日だな」


そういって席を立つ。


「はい、明日もよろしくお願いします」


いつものように見送られる。もうすっかり慣れてしまった流れだ。


明日はなにかを掴む事ができるだろうか?


山済みの疑問に焦燥感を駆られながら、俺は家路を辿った。

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