第16話:パートタイムラブゲーム
1月31日14時。依頼主の話をウンザリしながら聞いていた。
依頼の内容は浮気調査。昨日確認したメールの中にあったものだ。
依頼主は20代後半の女性で、夫の愚痴を垂れ流し続けている。
ここは探偵事務所であって人生相談所ではないのだが。
「あぁ分かった分かった、奥さんの気持ちは十分に理解した、それよりも奥さん、旦那からの貰い物とかあったら少し見せてもらえるか?」
いい加減限界だったので適当なところで話を終わらせる。
依頼人が帰ったのを確認した後、深い溜め息をつきながら応接間のソファに沈み込む。
「慧さん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・なんつーか・・・疲れた」
「奥さん、必死に話していましたからね」
「そう・・・だな、あそこまでいくとめんどくせぇよ・・・」
ついつい本音が漏れてしまう。
「でも旦那さんのことを大事に思っているからこそなんだと思うんですけど」
「・・・俺にはわかんねぇや。旦那が浮気したからあんなふうになっちまったのか、奥さんが元々あんなんだから旦那が愛想尽かしたんだか。考えたらきりがないな・・・まぁとにかく調査だ、行ってくるよ」
そういって重い腰を上げる。簡単だと思っていた依頼だったが、思わぬところで時間を食ってしまった。浪費した時間を取り戻さんと即座に空へ飛び立った。
捜索を開始して30分、依頼主が夫からプレゼントされた私物に残っていた魔力の痕跡と同じ男性を発見する、依頼主の夫に間違いない。
夫に接触を試みる、といっても気づかれないように透明化して接近し、対象の心を読めばいいだけなのだが。
距離が離れていると上辺の思考しか読み取ることはできないが、手が届く程度に接近して頭に手をかざすことで記憶や深層心理を読み取ることができる。
夫の頭に手が届く距離まで近づき、頭の上に手をかざし夫の思考を読み取った。
(こんなにも恋焦がれるなんて生まれて初めてかもしれない、これが真実の愛というものなのだろうか・・・ああ~!次に会える日が待ち遠しい!)
調べてみた結果、夫は浮気をしていた。次の週末に密会をするらしい。
後は当日に浮気現場の証拠を押さえればこの仕事は終わりだ。
あまり深入りするつもりはなかったのだが気になることがあった。
浮気相手の女性は妻と同じぐらいの年齢で特別容姿がいいというわけではなかったのだ。
俺の先入観ではあるが浮気というのは若くて美人の女性と出会ってしまい、魔が差してしまうのが原因だと思っていたがこの夫の場合は違うらしい。
浮気相手のことを心から想っている、そんな様子だった。
何故そんな歪な感情を抱いたは定かではない。
森羅万象、諸行無常。
この世に存在するものは全て移り変わっていく、それは人の心も例外でない。
永遠に変わらぬ想いは存在しない―
(求めて止まないモノが手に入らないってのは辛い事だな)
柄にもなく感傷に浸りつつ、事務所に戻ることにした。
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