第15話:家族の定義

調査対象を一ノ瀬遼太に変更し、再度最大出力で思念の痕跡を探す。


昨日と違って微かではあるが反応がある。


その反応を一つずつ念入りに探っていく。


しかし思念から読み取れる情報には彼の行方に関わるような内容はなかった。


2時間程度猫を抱えながら調査をしていたが大きな成果をあげることはできなかった。


だが初日に比べれば手応えはあった。


調査を続けていけば見つかるかもしれないという予感が確信へ変わりつつある。


魔法使いとしての成長が鍵になりそうだ。


(もうそろそろこのにゃんこを連れて帰るか)


ある程度時間がたったので事務所に帰ることにする。


一仕事終え、日が沈む景色を眺めるのは気分が良かった。


「たっだいまー」


「おかえりなさ~い。えっ!猫ちゃんもう見つかったんですか!?」


杏莉さんは目を大きく見開いて驚いている。


「いやさ、割と近くの公園が猫のたまり場になっててね。まさかと思って見て回ったら偶然見つけられたんだよ。運が良くて助かった」


嘘をつくのは本意ではない、ましてや彼女に対しては尚更だが・・・仕方あるまい。


半分ぐらいは本当のことだと自分に言い聞かせる。


「じゃあ早速依頼主さんに連絡しますね!」


「ああ、頼むよ」


しばらくすると、依頼主がやってきてので、猫を引き渡す。


目に軽く涙を浮かべて何度も頭を下げながら、感謝の言葉を口にしていた。




依頼主を見送りながらふと考えていた。


家族というのはそれほどまでに大切なものなのだろうか?と。


頭の中では理解しているつもりだ。かけがえのない存在なのだと。 


それが心の支えであり、人々の繋がりなのだと。


しかしそれを心で理解できている訳では無い。


頭で理解する事と、心で理解することは全く違う事だ。


何時か俺にも心から人の事を思い、涙を流せるような日が来るのだろうか?




「ねこちゃん・・・無事に見つかってほんとによかったです」


杏莉さんは嬉しそうに、だがどこか儚げに微笑んでいた。


「・・・そうだな」


君のお父さんも、と続けようと思ったが声には出せなかった。




月の光が町を照らし、影を映し出している。


それは俺の心の影を表しているような、そんな気がした。

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