第14話:勝手気ままな失踪者

依頼の内容は実にシンプルだった。


飼っていたペットの猫が数日経っても家に帰ってこないので探してくれ、とのことだ。


猫の写った写真を受け取る。それには可愛らしい黒猫が写っていた。


続いて、その猫の遊び道具を受け取る。


人間以外にもある程度知能を持った生物であれば魔力は存在している。


いつもの手順で思念を読み取り記憶する。


必要な情報を手に入れたので、依頼主に見つかったら連絡を入れると告げる。


よろしくお願いします、と必死に頭を下げていた。




俺はペットを飼っていた経験はないので依頼主がどんな気持ちでいるのかは解らない。


だがペットは家族だ、という人もいるぐらいだ。相当心配しているのだろう。


実の父親が居なくなってしまったというぐらいには―


「早速探しに行ってくるよ」


そういって俺は初仕事に出かける。




昨日の調査と同じ要領で探し始める。面倒だったので最大出力で探査の魔法を展開する。


すると痕跡ではなく本体を認識できた。


(いた!こっから3キロ先、あそこは確か・・・)


急いで向かってみるとそこには小さな公園があった。


敷地内には猫が数匹居座っていて、たまり場のようになっている。


公園に近づいていくとベンチの上に座っていた黒猫がこちらを見つめている。


疑問に思い振り返ってみるが背後にはなにもない。


(透明化してるのになんでだ?野生のカンってヤツかぁ?)


気になったのでその猫の魔力を確認してみる。


するとかなりの量の魔力が潜在していることがわかった。


(猫の魔法使い、だったりはしねぇか、まさかな)




動物の中にも不思議な力を持った個体がいるのだろう。


実際とても賢い犬や猫がいるが、つまりはそういうことなのかもしれない。


魔法の力は人だけのモノではない。強い意思が織りなす神秘、それが魔法だ―




公園に降り立つ。よく見るとその黒猫は探していた猫ではなかった。


首輪が付いていない。ただの野良猫のようだ。


視線はずっとこちらを向いている。


試しに手を振るとにゃ~んと鳴いて返事をしている。完璧にこちらを認識している。


この不思議な猫のことがとても気にはなるが、依頼されている猫を探す。


公園の隅っこに猫が数匹、寄り添って団子のようになっていた。


その中に首輪をした黒猫がいた。気持ちよさそうに昼寝をしている。


近寄っていきその猫に手をかざし魔法を編み出す。


(そのまま大人しく眠っててちょーだい)


ツンツンと鼻先を軽くつついてみるが起きる気配がない。


眠らせる魔法の効き目は抜群のようだ。そのまま猫を抱き上げ空へと飛び立つ。


(これで初仕事は終わりだな、楽勝だぜ)


公園を見下ろすとさっきの不思議な猫がこちらを見つめている。


軽く手を振ると猫も尻尾を振って返事を返しているかのように見えた。


探し始めてから30分もしないうちに見つけられたのは良かったが、すぐ帰るわけにもいかなかった。


いくらなんでも1匹の猫を町中探し回って見つけたにしては不自然すぎる早さだからだ、猫探しRTAリアルタイムアタック勢がこの世に存在するなら速攻で引退するレベルだろう。


しかし時間が余ったならそれはそれで好都合だ。


時間の帳尻合わせと余った時間を有効に使う為、調査を続ける事にした。

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