第17話:キャットテイクアウト

事務所に戻る途中、ふと下を見下ろすと昨日の公園があった。


そしてあの不思議な黒猫も同じ位置に座っていた。


黒猫はこちらの気配に気が付いたのか、なにも見えないはずの空を見上げてくる。


どうしても気になったのでその猫の元へ向かった。


猫が座っているベンチの横に腰掛け、透明化を解除する。


すると驚く様子もなくゴロゴロと喉を鳴らしながらこちらにすり寄ってくる。


「野良の癖に人懐っこいにゃんこだなぁ、お前は」


そう話しかけるとにゃ~ん、と鳴いて返事をよこす。会話が成立しているような気分になる。


頭を撫でやると機嫌を良くしたのかゴロゴロと寝転がっている。


「今度はなんか食うもんもってきてやるよ、また今度な」


そういってその場を去ろうとすると後ろからにゃ~ん、と呼び止めるような鳴き声が聞こえる。


振り返るとこちらをじっと見つめている。何かを必死に訴えているような、そんな様子で。


「わりぃけど、うちじゃぁにゃんこは飼えねぇんだ、他を当たってくれ」


ゆっくりとその場を立ち去る。するとベンチに座っていた猫が俺の後を追いかけてくる。


「あーもう、わかったよ。杏莉さんちに置いてくれねぇか聞いてみる。ダメだったら諦めろよ?」


そういうとにゃ~ん、と返事をして、またすり寄ってくる。


杏莉さんは昔猫を飼っていたと言っていた。父も猫が好きだったらしい。


もしかすると喜んで引き取ってくれるかもしれない。


猫を抱きかかえて飛び立つ。暴れると思ったが意外にも動じる気配はなく、大人しくしてくれていた。徒歩で帰るのは面倒だったから都合はいいのだが。


「ほんとにお前は不思議なヤツだな」


返事はなかった。空から見る景色を堪能しているのだろうか?


この猫の考えることなど俺には到底理解できそうになかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る