裏第2話:あの人の事を私はまだ何も知らない
昨日のことが気になっていた。消えてしまったあの人のことが。
気が付けばいつもの癖で父と自分の分の食材を買ってしまっていた。はぁ、とため息をつく。
家の前まで行くとそこには昨日みたあの人と同じ格好の男性が立っていた。
事務所のプレートを見ながら不思議そうに首をかしげている。
声をかけてみるとやっぱり昨日、傘を貸してくれたあの人だ。
昨日のことはれっきとした事実のようで安心した。
私はどうしてもお礼がしたくなり、彼に食事を作ってあげることにした。
幸い材料は二人分ある。急いで昼食を作って、彼の所に運んでく。
帽子をとっていたので初めてはっきりと彼の顔を見ることができた。
黒髪が肩の辺りまでまっすぐ伸びていて、目は二重で眼力があり、瞳は薄い色をしている。片目には髪がかかっていて、色白で顔は整っている。
年齢は25歳ぐらいだろうか。少し陰があり近寄りがたくて、怖い雰囲気があるが、どちらかと言えばイケメンの部類に入ると思う。
彼は手を合わせ一礼をしそれを口にした。
すると物凄いスピードで食べ始め喉に食べ物を詰まらせてしまっていた。
どうやら私の料理を気に入ってくれたらしく、とても美味しそうに食べてくれている。
その様子はいつも私の料理を食べていた父に似ていて嬉しく感じた。
彼に父の事を相談してみた。すると彼は快く父を探してくれると言ってくれた。
家族の写真を見せて説明をしている時に彼はとても思いつめた表情をしてなにか
早速彼は手掛かりを探しにいくと出かけて行った。彼もまた居なくなってしまわないだろうかと不安になった。
だから「待ってますから!」と語気を強めて彼を見送った。
晩ご飯はカレーを作ることにした。好みが分からなかったので皆好きであろうものを選んでみた。
お皿を渡したと思った次の瞬間には食べ終わっていた。美味しそうに食べてくれる点ではやはり父に似ていると思った。
「一ノ瀬さん、おかわり!」
そう声をかけられて現実に引き戻される。父は私の事を杏莉、と名前で呼んでいたからだ。
無理やり彼に私の事を名前で呼んでもらえるようにした。私も彼を名前で呼ぶことにした。深い意味はないけれど、こちらのほうがいいと思ったから。
料理を作るのは好き。でも一人で食べるのは寂しかった。だから私の料理を喜んで食べてくれる人が居るのはとても嬉しい事なのだと改めて気づかされた。
食べ終わってからは談笑をして明日も来てくれるようにとお願いした。遅めの誕生日祝いをすると約束して。
彼を玄関で見送り、空を見上げる。星空は変わることなく輝きを放っている。
父もこの同じ空を見ているのだろうか?そうあってほしいと強く願う。
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