第10話:カレーと家族の間には

今日一日の調査を振り返る。結果は手掛かりになるようなものは全く見つからなかった。


(・・・発想の逆転、手掛かりが見つからないというのが手掛かり、か?だとしたらどういう意味なんだろうか)


一つの視点に囚われずに多角的に物事を分析する。


痕跡がないのは何者かに消されているからなのだろうか?


だとしたらその人物は魔法使いである可能性が高い。


事件を調査するうちに魔法を悪用している人物に遭遇してしまった。


そうなると彼を探し出すのは困難を極めるだろう、最悪―


(・・・まだ初日だ、色々可能性を模索するのは悪いことじゃないが早計すぎるな)


人探しという慣れない事をしたせいか疲れてきた。


ソファに深く腰掛け天井を見上げ、ボーっと眺める、すると―


「お待たせしました、一ノ瀬家特製カレーです!」


目の前にお皿が運ばれてくる。食べなくても分かる、これは絶対に美味い、間違いない。


手を合わせいただきますと一礼し早速食べ始める。


「隠し味に色々入ってます、たとえば―」


彼女が説明しているがその声はもう俺には届かない。


スプーンを動かす手は人の限界をいとも容易く凌駕し、わずか1分足らずで完食する。


「一ノ瀬さん、おわかり!」


お皿を天高く掲げ大声で宣言する。


しかし彼女は両手を腰に当て前かがみになってこちらを見ているだけで微動だにしない。


「あ・・・あの、すいません・・・おかわり、いいですか・・・?」


やはり微動だにしない。何か悪いことをしたのだろうか?


彼女の顔色をうかがってみると何かを期待するような目でこちらを見ている。


「あ・・・あんり・・・さん?あの、おかわり・・・頂いても、よろしいで・・・しょうか?」


「・・・大盛ですか?」


「え?あ、はい、お願いします」


そこまで言うと彼女は上機嫌でお皿を受け取りキッチンへ戻っていく。


大盛のカレーと自分の食べる分のカレーを持ってきた。


「慧さん、そんなに急いで食べなくても私の作ったカレーは逃げたりしませんよ」


どうやら名字ではなく名前で呼んだのが正解だったようだ。どんどん距離を縮められていく事に少し戸惑いはあったが別に悪い気はしない。


大盛のカレーをゆっくりと食べていく。彼女も嬉しそうに食事をしている。食べ終わって一息ついたところで彼女に質問をしてみる。


「一ノ瀬さんは料理上手だけど、どこで覚えたん?」


彼女はさっきと同じように無言でこちらの顔を覗き込んでいる。どうやらもう逃げられないようだ。


「あー、杏莉さんは料理、どこで覚えたん?」


「子供の時に母に教わりました。母が居なくなってからは私が料理当番をしていて。最初はあまり上手くいかなかったんですけどそれでも父は喜んで食べてくれて。それで上手くなろうって思って頑張って覚えたんです。大学生の時も料理の勉強をしてました。一応調理師の免許も持ってるんですよ!」


「料理ガチ勢かよ。君はいい嫁になれるよ」


「えっ、そ、そうかなぁ・・・?」


恥ずかしそうにもじもじしている。呼び名の件をここぞとばかりに仕返ししていく。


「そういえば君のご両親の事、聞いてなかったな。差し支えなければ話してくれないか?何か手掛かりになるかもしれないし」


「はい。えっと、父は一ノ瀬遼太 りょうた、56歳。母は祐花 ゆうか、13年前、私が10歳の時に居なくなってしまって当時は30歳でした。母は事あるごとに『遼太さんは私の命の恩人の名探偵なの」って言ってました。昔事件に巻き込まれた母を助けたのが父だったらしいです。それが切っ掛けで交際するようになったと言っていました。昔は父は色々な事件を解決するために飛び回っていてあまり家にはいませんでした。母が居なくなってからはあまり大きなお仕事はせずに小さな依頼を受けていました。父は母が居なくなってからずっと母のことを探したみたいです・・・」


「そうか、仲良かったんだな。うらやましい限りだ」


「慧さんのご両親はなにをなさっているんですか?」


「俺のか?んーどうだろ、しばらく連絡とってないからなぁ」




家族の事はあまり思い出したくなかった。


家庭環境が悪かったわけではないのだが、子供の時からずっと孤独だと感じていた。


他の人とは違う場所に居るような感覚。


決して人と交わることは無い、そう思っていたのだ。


何故そんな風に思うようになったかは今となっては思い出せないが。


そんな自分の孤独を埋める為にこの町にやってきたのだが結果は変わらなかった。


きっとこの先も変わる事は無いだろう。




「どうかしましたか?」


「いや、なんでもないよ」


「ところで慧さんは今何歳なんですか?」


「ん?昨日30歳になったよ、もうおっさんだな」


「え、私25歳ぐらいだと思ってました」


「じゃあ30じゃなくて25歳です」


そういうと彼女はジト目でこちらを見てきた。


「というより昨日誕生日だったんですか!なにかお祝いをしないと!」


「いや構わないよ。それにもう、うまいもん食わせてもらったしな」


「う~ん・・・じゃあ明日ケーキを作るのでまた来てもらえませんか・・・?」


寂しそうな顔でこちらを見ている。


きっと父が帰ってこなくて一人で居るのが不安なのだろう。


「親父さんが見つかるまではここに来るつもりだよ。君に断られない限りはね」


「断ったりしません!むしろお願いします!私一人じゃどうにもならないから・・・」


「まぁやれるだけの事はやってみるさ。さて、そろそろ帰るよ。明日もお昼頃くるよ」


「じゃあお昼ご飯作って待ってますね」


そこまで話して席を立つ。帰り際にまた明日と挨拶をして彼女の家を出る。




月が夜道を照らしている。届かぬと知りながら輝く星々に向かって俺は飛び出した。


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