第9話:マジカル何キロ探せる?
さっき試した雪の傘の魔力を辿った要領で、一ノ瀬父の痕跡を探す。
限界の半径5キロぐらいを探ってみるが反応がない。
単に見つかると思っていたが一筋縄ではいかないようだ。
10キロほど北へ進み、もう一度探ってみるがやはり反応はない。
その後南東、南、南西と六角形を描くように探してみるが一向に反応がない。
一ノ瀬家を中心に大体半径15キロを探査してみたが痕跡を見つけることは出来なかった。
(これは予想外だな。かすりもしないか・・・まいったな)
魔力の残量は残り一割を切っていた。昨日に比べればだいぶ長持ちした。飛行時間だけでいえば4倍近く飛べていた。だがそろそろ限界が近い。
おっさん妖精が言っていたとおり魔法を使い続ければ上達していくようだがこれほど違いがあるとは思っていなかった。
仕方なく探索を終了させ一ノ瀬家へ帰還する。
初日の調査は収穫ゼロ、という残念な結果に終わってしまった。
ゼロ、ということもないか。元々そんな人物は存在しなかったのではないか?
そう思えるぐらい彼が存在したという痕跡がないことが明らかになったからだ。
約束した時間より早く帰ってきてしまったが、今の彼女からすれば遅くなるよりはマシなのかもしれない。
事務所のドアを開け、応接間を覗いてみるが人の気配はない。
仕方なく二階に上っていくと右手にドアと呼び出し用のチャイムがある。
少し迷ったがチャイムを鳴らす。すると家の中から返事が聞こえてからドアが開く。
「あ、岩﨑さん。おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
「晩ご飯は1時間後ぐらいに出来ると思うので良かったら家に上がって待っててください」
「・・・じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
予想はしていたが、なんというか無警戒すぎるんじゃないだろうか?
そう思いながら彼女の住む家に入ることにする。
玄関の正面奥にキッチンがあり、大部屋の中央には机があり、その周りには長めのソファが二つ。机の向こう側の壁際にはテレビが置いてある。
左奥は和室なのか襖が、そこから時計回りに洋室、角を挟んで風呂場、トイレ、玄関という間取りだ。
とりあえずソファに腰掛けテレビを見ながら時間を潰す事にする。
「あのさぁ・・・普通に家でくつろがせてもらってるけど、こんな得体も知れない人間と一緒で怖くねぇの?」
料理をしている彼女に問いかける。
「う~ん、岩﨑さんはなんというか、確かに外見はちょっと怖く見えますけど、悪い人じゃない気がするんですよね。その、なんていうか、父と雰囲気が似ているから、だいじょぶかな~って。顔とか性格は全然違うんですけどね」
「それも君のカンってヤツか・・・全く・・・」
何故かは知らないがある程度信用されているようだ。
昔から外見のせいで近寄りがたい人間だと思われる事が多かったがこれほどすんなり受けいれられるのは初めてだった。
大体第一印象で怖そうだの近寄りがたいだの思われてしまい、その意識を払拭するのは困難だった。
いつしか仮面を被って取り繕うことが面倒になり、人間関係の構築を放棄して生きてきた。
しかし彼女はこちらの内面を見ようと努力をしてくれているようだった。
とはいえあまり買い被られても困るわけだが。
「周辺を探してきたんだが親父さんの情報は得られなかったよ。もしかしたら結構遠くに行ってるのかもしれん」
「う~ん、荷物をあまり持っていかなかったのでそんなに遠くには行ってないと思っていたんですけど」
「そうなのか。問題なければ親父さんの部屋を見せてもらっていいか?」
「ええ、そこの和室が父の部屋なのでどうぞ見てください」
襖を開けて中を確認する。綺麗に整理された部屋だった。
私室だけあって一見したところ何か手掛かりになるようなものはなかった。
痕跡を探ってみるとこの部屋には思念がちらほらと浮かんで見えた。
その様子を見て少し安心する。存在していたという証拠がここにはある。
思念に触れてみる。写真のアルバムを見るように過去の一場面が頭に浮かんでくる。
しかし居なくなってしまった理由に結び付くような情報は得られなかった。
部屋の中の思念をある程度確認してから彼女の父の部屋を後にし、ソファに戻る。
部屋には食欲をそそる香りが漂っている。どうやらカレーを作っているようだ。
「カレーはやっぱ男の子だよな」
スーツ姿の似合う、個人で輸入雑貨を扱うバイヤーの男性が時節
のように、唐突に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます