第8話:探偵はどこへ消えた?

部屋の鍵自体は魔法で簡単に開けることができるはずだ。


道具など必要ないのだが自分の力がバレない為の口実作りをしておかなければ。


「しかし素人の俺がいきなり人探しとは・・・まぁ駄目で元々だ」


今までに人探しなど一度もした事がない、だが見つけ出す自信はあった。


なんせ俺は魔法使い、この力を駆使すればなんとかなるだろう。


「お待たせしました。写真はかなり前の物しかなかったのですが」


写真には三人の人物が写っている。左には一ノ瀬杏莉そっくりな人物。


真ん中にその人を幼くしたような女の子。そして温厚で頼りになりそうな男性。


「母がなくなる少し前に撮った写真です。13年ぐらい前の物です。父が写っている写真はそれしかなくて・・・」


さらっと重要なことをいわれ、驚いて聞き返す。


「亡くなった?君の母さんは死んでしまったのか?」


「あ、いえ、正確には『居なくなった』んです。その写真を撮った後に行方不明になってしまって。母が居なくなるまでは父は色々な事件を解決していて名探偵なんて呼ばれていたみたいで。でも母が居なくなってからはあまり多くの事件に関わらなくなってしまって。母のことを探し続けていました」


13年前に失踪した母。それを探していた名探偵の父が音信不通に。


彼女の心境がどのようなものか改めて痛感する。


「・・・なんか、すまん」


「いえ、気にしないでください。母のこと、当時はショックでしたけど今は気持ちの整理はついているので」


煮えたぎるような怒りが込み上げてきた。このままではなんの罪もない彼女があまりにも不憫だ。


神というものが本当にいるのであればこれほどの仕打ちをする外道を今すぐにでもバラバラにしてやりたかった。


同時に軽い気持ちで話を聞いていた自分にも怒りを覚える。覚悟を決め、拳を強く握りながら小声で呟く。


「・・・必ず見つける」


「え?」


「いや、なんでもない、それよりクリップはあったか?」


「はい、でもこれをなにに使うんですか?」


俺はそれを受け取るなり、針金状にして鍵穴に突き刺しガチャガチャと動かした。


「ピッキングって奴だな、うまくいけばこれで開くはずだ」


当然俺にそんな技術はない。ドラマなんかで見たことがあるだけで、それを真似ているだけだ。


「えっ、できるんですか?」


「ああ、昔空き巣やってたことがあってな、これぐらいなら開けられるよ」


「えっ!そんなことしてたんですか!だめですよ!」


割と本気で怒っているがなんとなく可愛く見える。


「ふふ、冗談だよ冗談。そんなことより知り合って間もない人間にこんなことさせていいのか?」


俺はいたずらな笑みを浮かべて彼女に質問した。


「う~ん・・・岩﨑さんは・・・なんていうか、だいじょぶだと思います」


「なにそれ、答えになってなくね?」


「名探偵の娘のカンです!たぶん当たってます、きっと、はい!」


「もうちょい疑えよ。俺めっちゃ怪しい人だと思うんだが」


そのタイミングで鍵を開ける魔法を編み出して念じる。するとガチャッという音が聞こえた。


「っと、何とか開いたみたいだな、簡単なヤツでよかったよ」


「す、すごい・・・」


口を開けて唖然としていた。思わず噴き出しそうになる。


「たまたまうまくいっただけだよ、中に入ってもいいか?」


「ええ、お願いします」


部屋には立派な机と椅子があり、壁を覆うように本棚がおいてある。


本棚の中には無数のファイルが所狭しと差し込んである。


机の上にはいくつかのファイルとノートパソコン、そしてプリンターが置いてあった。


「軽く部屋の物を調べさせてもらうが、構わないか?」


「はい、だいじょぶだと思います」


了承を得て机のファイルを手に取る。おそらく最後に手に触れたであろう物がこれだろう。


ファイルの中には不審死や自殺、行方不明などの事件の概要が記録されていた。


行方不明はわかるが、不審死と自殺は関連性があるんだろうか?


とりあえず思念を探ってみることにした。


しかしファイルからは何も感じ取ることができなかった。


部屋の本棚に目をやったが不自然なぐらいになにもない。


(一生懸命探していたのであれば町にあったみたいに少しは痕跡があると思ったんだがな・・・)


もう一度机に目をやると かすかだが机の引き出しに痕跡を見つけ出した。  


引き出しを開けるとそこには―


「猫・・・のキーホルダー?」


そこには古ぼけてはいるが、デフォルメされた可愛らしい黒猫のキーホルダーが入っていた。鍵が一つだけ付いている。


「あっ、それは私が小学生の時に父の誕生日にプレゼントした物です。まだ持っててくれてたんだ~」


早速手に取って思念を読み取ってみる。すると持ち主の記憶がいくつかの写真のようになって脳内に流れ込んできた。


最愛の妻と娘、失った想い、誓った覚悟、真実への確信―


「あ・・・れ?」


気が付くと右目から涙が流れていた。痛かったり、悲しかったりするわけではないのだが。


「どうかしましたか?」


声をかけられて我に返る。


「いや・・・目にゴミが入ったみたいだな」


ありきたりな台詞で誤魔化す。とりあえずの目的は果たした。


持ち主の思念のパターンは記憶した、これで探し出すことができる。


「この部屋にあるファイルの事件を追っていけば見つけ出すことができるんじゃないか、と思うんだが」


「ほんとですか!」


「たぶん、だけどね。どれぐらいかかるかはわからんけど。もしかしたらそのうちひょっこり帰ってくるかもしれないし」


「その時は腕を振るってご馳走作りますよ!みんなでたくさん食べましょう!」


「はは、そりゃいいな」


根拠はないが自ら帰ってくる可能性はないと感じていた。


この部屋は何か変だ。人がいた痕跡を感じない。


それに他の者を寄せ付けない雰囲気を感じる。


「この鍵は君に預けておくよ、たぶんこの部屋の鍵だから」


そういって先程のキーホルダーを彼女に手渡す。


「とりあえずこの部屋はまた後で見ることにするよ」


他の書類、特にノートパソコンの中身は気になったが、恐らく重要な手掛かりはないような気がした。


「わかりました、その時は声をかけてくださいね」


「ああ、それと早速探しに行ってみるよ。少し思い当たることがあるからそれを確認してくる」


「えっ、もうなにかわかったんですか?」


「んー、そういう訳じゃないないんだけどちょっと気になることがあってね」


そういって書斎を後にする。ソファに置いておいた帽子とコートを手に取り外へ向かう。


「とりあえず夕方、18時ぐらいには戻るよ」


「じゃあ晩ご飯作っておきますね!」


「え、マジ?いいのか?」


「私、それぐらいしかできないから。それに岩﨑さん、普段コンビニ弁当とかばかり食べてそうだから」


完全に図星だった。やはり女のカンは鋭いものなのだろうか?


「君エスパーかなんかなの?なんでバレてんの?」


「名探偵の娘のカンです!バレバレですよ!」


エッヘン、と自慢そうにポーズをとる。一々仕草が可愛くて笑ってしまう。


「それじゃ行ってくるよ、ご馳走、期待しておくよ」


「任せてください!待ってますから!」


別れの挨拶を済ませ、人気のない路地に入り周囲を確認し、俺は空へと飛び立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る