第7話:約束と契約


状況を軽く整理する。彼女、一ノ瀬杏莉の父は事件の調査に出かけ、一週間前から連絡が付かなくなっているそうだ。


どんな事件を調査していたかはわからないが、この状況で考えられることは一つしかなかった。


「・・・やっぱ事件に巻き込まれて連絡が取れない状況になってるってことか?」


「父に限ってそんなことはないと・・・思いたいのですが、すごく心配で・・・」


彼女の不安を煽ってしまった。だが可能性は十分にある以上考慮せざるを得ない。


頭をフル回転させるがヒントが少なすぎて、現状で思いつくことは特にない。


考え込んでいると彼女が細々とした声で話し始めた。


「あの、こんな事お話しをするのはおかしいと思うんですが、聞いてもらえませんか?」


「ああ、いいぜ、なんでも話してくれ。聞くだけならいくらでもできるぜ」


「父を探すのを手伝ってほしいんです。もちろん報酬はお支払いします」


「そういうことなら断わる」


俺は即答する。


「・・・そうですよね、すいません突然変なことを言ってしまって」


静寂が場を支配する。空気が極端に重くなり自然と彼女の頭がうなだれていく。


しかし俺は全く動じずに次の言葉を投げかける。


「そういうことというのは『金を払う』ということだ。金はいらないし、俺の自由にやる。見つけることができたら君がご馳走を作ってくれる。この条件ならできる範囲で手伝おう。どこまで役に立てるかはわからんがな」


「えっ?!手伝ってもらえるんですか!それにそんな条件で・・・」


「別にいいよ。俺ちょっと前に仕事辞めちまって暇だし。俺のやりたいようにやらせてもらうだけでうまい飯が食えるとかこんなに幸せなことはないだろ?」


「でも、お金はいいんですか?」


「いいんだよ、そんなもの。そもそも人を探すなんて事、素人の俺にちゃんと出来るかどうかわかんねぇしな。だからもらうわけにはいかない。


 それに君の料理、気に入ったんだ。御馳走が待ってると思えるなら割とやる気出るぜ」


「・・・わかりました!私毎日でもご馳走作ります!なので・・・どうか父を探すのを手伝ってください・・・」


「よしっ!交渉成立だな。早速だが親父さんの写真があれば貸してほしい、それと調べていた資料にも目を通したい」


「写真、ですか。自宅にあると思います、探してきます!資料はその奥の部屋にあると思うんですが鍵がかかっていて・・・鍵は父が持っていてスペアはないですし、困りましたね」


「じゃあこじ開けるしかないな、針金のような物、そうだな、クリップがあれば二つぐらい持ってきてくれないか?」


「わかりました。少し待っててください」


調べていた資料などには思念が残っているかもしれない。


思念は指紋の様に人それぞれに違っている。それを辿れば探し出せるかもしれない。

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