第4話:魔術的鍛錬生活

1月29日10時頃、俺は目を覚ます。体に特に異変はない。


魔法を使いすぎても体への弊害はないようだ。


魔力も回復しているらしく、宙に浮かぶことも可能だ。


少し遅めの朝食をとる。魔法でなにか作れないかと試してみたものの、料理の知識がないので焼く位のことしかできそうになかった。


魔法といっても万能というわけではなさそうだ。


仕方なく冷蔵庫に入っている昨日の白米とスーパーで買った半額の総菜を食べることにする。


電子レンジで加熱してコタツの上へ運び、録画しておいた深夜アニメを見ながら食べる。


友人の勧めでなんの気なしに見はじめたのだが、今ではうだつが上がらない日々に彩りを添える、貴重な存在だ。


一通りアニメを見終わるとお次はパソコンを立ち上げ、行き着けの動画投稿サイトへ飛び、気になる新着動画をチェックしていく。


(ホントにこいつらは飽きもせずくっだらねぇ動画をあげてるなぁ)


心底感心しつつニヤニヤと笑いながら動画を見て回る。


それが終われば今度はストックしてあるゲームの攻略だ。


ゲーマーを自称するほどではないが、ことゲームに関しては、満三歳の時にはボスをマグマに叩き落していたぐらいにはやり込んでいる。


ゲーム機の電源を入れ、日が落ちるまで今やっているゲームのレベリングに明け暮れる。


これが無職になってからの俺のルーティーン。しかし今日は違う。




一通りキャラのレベリングを終えたところで、早々にゲーム機の電源を落とす。


上体を軽く伸ばして深呼吸を数回して、心を落ち着かせる。


まず手始めに、自分の魔力の残量を確認する魔法を編み出す。


意識の中には円柱状のコップのような物が浮かび上がり、7割程度のところまでなにかが入っている。


満タンになっていないのは、9時間の睡眠では完全に回復しきらなかったということなのだろう。今後は上手くやりくりしていかなければ。


数値化してみたのだが、桁が10桁を遥かに超え天文学的数値に達している。


下十数桁が電化製品を使用中の時の電気メーターの様に回転している。


流石にこれはわかりづらいので表示する魔法を解除する。




次に自分で使った魔法の痕跡を残さない魔法と、外部に魔法を使ったことを察知されない為の結界のようなものを作る魔法を編み出す。


自分の魔力を辿たどれるのであれば人の魔力を辿ることも恐らく可能なはずだ。


おっさん妖精の説明では「条件を満たせば誰にでも魔法の力を授けている」らしいので最悪の事態を想定してのことだ。


何処かでばったり同じ魔法使いに出会う可能性は十分に有り得る。


しかしその相手が必ずしも友好的だという保証はどこにもない。


魔法の力は強大だ。ゆえに非常に厄介な力だということは早々に認識していた。


使い方次第で善にも悪にもなる。


敵意をむき出しにして襲ってくる者もいるかもしれない。


だから自分が魔法を使えるということを他者に気付かれてはならない。


慎重に事を進めなければ足をすくわれる。


折角手にしたこの力を満喫する前に死んでしまうようなことがあってはつまらない。




現状で思いつく限りの対策をし、外へ飛び立つ。


魔力の残量は先程と比べると若干減っているような気がするが誤差の範囲といったところだろうか。


俺は昨日のコンビニへ向かう。今の時間はあの店員さんがいるだろう。


レジでせわしなく接客をしている小柄な女性を確認する。


20代前半に見え、出る所は出て締まるところは締まっていて可愛らしい顔をしている。


買い物をしているおっさんの鼻の下が若干伸びているのがわかる。


ふと自分の鼻の下が気になって手をあててしまった。


(はいはい、お待ちかねの時間ですよ~)


俺はある魔法を編み出す。すると女性の服がみるみる透けていき、あらわな姿を晒し出す。


そう、透視の魔法だ。男なら誰しも妄想するであろう夢の魔法だ。


カウンターなどで大事な部分が隠れて見えないが紳士の俺はそれがまた良いということを理解している。それらも透視するなどという無粋な真似はしないのだ。


(くくく・・・いやぁ、これはなかなかどうして、ぐふふふふ)


今俺の顔は確実にヤバイ人間と認定されるぐらいゲスい顔をしているだろう。


ついでに心を読む魔法も編み出してみる。


(この時間帯はやっぱり忙しいな~。ん~明日のデート、どこにいこうかな~?)


(っげ、彼氏持ちかい。いやまぁ可愛いんだし、居て当然か・・・)


ガックリと肩を落とす。興が覚めてしまったので男の夢とは決別し、再び空へ上って魔法の鍛錬を続ける事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る