裏第1話:あの人の名前を私はまだ知らない
(父さん、父さん!)
私は胸を締め付けられるような思いで走り回った。
気が付いたら雪が降り始め、次第に強くなっていった。
走りつかれてその場に立ち尽くし、空を見上げた。途端に私の感情が溢れだした。
(何処へ行ってしまったの―)
すると後ろから声が聞こえた。驚いて振り返ると一人の男の人が立っていた。
帽子を深々とかぶり、ロングコートを着ている。
全身黒尽くめの手には不釣り合いな雪のように白い傘をもった男の人が。
今思えばとても怪しい姿をしていたのだけれど、なぜだか安心感があった。
彼は私に傘を差しだして家に帰るようにと言ってくれた。
すると今までぐしゃぐしゃだった心が、不思議と落ち着くことができた。
私は傘を受け取って家に帰ることにした。私は二度振り返った。
一度目は軽く手を振っている姿が見えた。でも二度目にはもうその姿は見当たらなかった。
まるで雪が溶けて消えてしまうかの様に―
あの人は本当に人だったのかな?
玄関に立て掛けたはずの白い傘は、今はもうどこにもない。
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