第3話:押忍!俺魔法使い!いっちょやってみっか!
あいつが去った後、俺は考えていた。この力をなにに使うか、と。
(とりあえずなにがどの程度できるかを確かめる必要があるな)
俺は試しにあることを念じてみた。すると―
「うわ、マジか・・・」
俺は
どうやら空を飛ぶ程度は難なくこなせるようだった。
(うっわ、やべぇ、これはヤベェ、いいぞーコレ)
部屋の中を自在に飛び回ることができる。人類の夢が現実になった瞬間だった。
しかしこの部屋では狭すぎてこの能力をこれ以上試すことができそうにない。
一旦空を飛ぶことをやめ、ほかにできることがあるか、試しにやってみる。
指を鳴らせば火を出すことも可能だし、強く念じれば水を凍らせることもできた。
鏡の前に立ち自分を見つめる。すると自分の姿が鏡に映らなくなった。
透明になることも容易くできてしまうという事実に心が躍る。
(なんでもありかよ、こりゃすげぇな。良い誕生日プレゼントを貰ったぜ)
居ても立ってもいられず俺は家を飛び出した。文字通り、飛び出したのだ。
空を自由に飛び回るのは言い表すことができないほど快感だった。
透明化しているから他人の目を気にする必要もない。
念の為魔力切れになってもすぐになにかに着地できそうな位置をキープして飛んでいく。
気が付くと雪が降り始めた。だが今の俺には関係はない。
雪を寄せ付けないように、と念じる。
寒さも苦痛に感じることはない。自分の周りの温度を調整できるからだ。
(なんでもありだが、これだけ複数の魔法を唱えながらどれだけもつんだろうなぁ?)
30分程度その状態で町を飛び続けていた。雪は次第に強く降り積もっていく。
ふと、視界の端に人影を見た。距離があり、雪が降っているせいかシルエットしか見えない。
今日という最高の日が終わりそうなこんな時刻に何をしているのだろうと疑問に思い近づいていく。
どうやら女性のようだ。
背中のあたりまで伸びた黒い髪と着ているコートは雪のせいで白く色づいていた。
両ひざに手をつきながら肩で息をしている。こんな時間、この天候の中走っていたようだ。
透明化を解かず、正面まで近づいていき様子を見ることにした。
彼女は呼吸を整え終わったのか顔を上げ、そして俺の目を見つめてきた。
一瞬驚いたが偶然、視線が合っただけのようだ。
彼女はさらに視線を上げて雪が降るその空を見つめ始めた。
街灯に照らされ雪と共に輝きを放つその姿を美しいと感じた。
幻想的なその瞬間を一枚の絵に残しておきたい、そんなふうに思った。
目じりに落ちた雪が溶けて水になり流れ落ちる。彼女の涙と共に―
(泣いている・・・?なんだこの人は・・・?)
異質な状況に頭を悩ませる。今俺ができることはなにかあるだろうか?
一つだけ思いついたことがあったので試してみることにする。
彼女の後ろに回り込み、数メートル離れた位置で透明化を解き、雪を材料に傘を作り出す。
そして不審がられないように、と念じながら声をかける。
「あのー、どうかしましたか?」
「え!?はい、いや、なんでもないです・・・」
涙を手で拭い去り、振り返ってこちらを見てきた。今度はちゃんと目が合ったようだ。
「こんな雪の夜の中たってたら色々まずいでしょ。この傘持ってっていいから早く家に帰りなよ」
彼女はキョトンとした目でこちらを見返してくる。やがて申し訳なさそうに口を開いた。
「でも、それではあなたが・・・」
「俺んちはこのすぐ近くだからヘーキヘーキ。安物だし、あげるよ」
そういって半ば強引に彼女に傘を手渡す。
「すみません、それではお言葉に甘えて・・・」
「それじゃ、気を付けてな」
彼女は深くお辞儀をして、来た道を戻っていった。
途中でこちらを振り返りもう一度頭を下げた。
それを見届けて俺は再び空へ飛び立った。雪夜の女性の涙、一体何があったというのか。
今日は色々ありすぎて疲れて眠くなってきた。
雪の傘には魔力を込めておいた。試しに位置を探ってみたが思った通り場所を把握できる。
(色々考えるのは起きてからでいいや、ねみぃ)
すると軽い目眩に襲われる。段々と飛行速度と高度が下がっていく。
(あー、魔力切れってことか、人助けなんてするもんじゃねぇなぁ)
適当な道に不時着し、再度浮かべと念じるが体が浮くことはない。
舌打ちをしながら足早に帰路に着いた。
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