第2話:なんだこりゃ!これも魔法の力なのか!?

俺は半笑いしながら肩をすくめて首を振る。そんな非現実的なことがあるわけがない。


「事実なのだよ。これから君に力を与える。そうすれば解るだろう」


おっさんは俺の頭に近づいてきて両手をかざし祈り始めた、その直後―


「っ・・・ぐ!な、なにをした・・・!」


今まで感じたことのない激痛が体を駆け巡る。


自分という存在が一度バラバラになり再構築されたような感覚だった。


「さて、君に力は与えた。試しにそこにある時計を浮かしてみるといい。やり方は簡単だ。そうなるよう念ずればいい」


おっさんが指差す方向を見ると、さっき見たデジタル時計が置いてある。


22、17と表記されている。


試しに時計を凝視しながら浮かべ!と心の中で叫んでみる、すると―


「うか・・・んだ・・・!?」


時計はプカプカと宙に浮いた。そして俺の手元まで飛んでくる。


その後時計は飛び回り、元の位置で静止した。そう俺が念じたからのようだ。


「・・・お前が俺の心を読んでやってるわけじゃねぇよなぁ?」


「そんなことをして私に何の得があると言うのだ?」


目につく物を片っ端から念じて浮かばせていく。


最終的には部屋にある大半の物を同時に浮かばせることができた。


目の前の非現実的な光景に混乱したが、このおっさんが言っていることに偽りはないようだ。


「・・・いくつか質問がある。30年童貞であれば誰でもこの力は得られるのか?その後童貞でなくなったらどうなる?」


「条件を満たせばどんな人間にでも力を与えている。しかし中には魔力や適正が低く、魔法をうまく使えぬ者もいれば、自覚せずに魔力だけを得て、能力そのものは開花しない者も居る。今の君のように自在に能力を扱える者は稀だと言えるな」


「そんじゃ、童貞じゃなくなったらどうなるんだ?」


「力を与えてから童貞でなくなった場合には魔法使いとしての成長は弱まっていく」


「つまり童貞のまま魔法を使い続ければ、いつかはその力で地球を破壊しちまうこともできるってことか?」


「その通りだ。物を動かす魔法を例にしよう。慣れないうちは軽い物を遅く短時間しか動かすことができない。しかし使い続けていれば、次第に重いものを素早く長時間動かすことができるようになる。魔法を使うと魔力を消費することになる。これも魔法を使っていれば絶対量が増えていく。魔力は休息をとれば自然と回復する」


「なるほどな、大体理解したよ。だがこんな力を誰彼構わず与えてもいいのか?どう考えたって悪用するヤツが出てくるだろ」


おっさん妖精は眉間にしわを寄せて渋い顔をしている。


腕組みをして重々しい口調で話し始めた。


「君の言う通りだ。力を持った人間の中にはこの世の秩序を乱す者も居れば、その逆も然り。本来ならばそうやって均衡が保たれる筈なのだが・・・」


そこまで言うとおっさん妖精は押し黙ってしまう。


「なら悪用するヤツから力を取り上げればいいんじゃねぇの?まさかとは思うが・・・」


「その通りだ。我々妖精は力を与えることはできても奪うことはできない。掟でそう定まっているのだ。力を与える以外の人間への干渉は原則として禁じられている。破ればおそらくは・・・消滅してしまう。察しの良い君のことだ。ここまで話せば私の意図は伝わっているだろう」


色々疑問に思うことはあったがつまりは―


「俺に正義の魔法使いになれってことか?お断りだねぇ、そんなのは」


苦笑しながら即答する。この力は俺が俺の為に自由に使わせてもらう。


俺はそういう人間なのだ。


「君の考えは解っている。だから君にもう一つの力を託した。他の人間を魔法使いにする力だ」


「バカか、お前は。そんなことしたら―」


そこまで言うとおっさん妖精の姿が淡く光る球体へと変化し、徐々に宙に浮かび上がっていった。


「もう時間がない。また何れ会おう」


それは部屋の窓を通過して何処かへ行ってしまった。


「待て!話はまだおわっちゃいねぇぞ!おい!」


後を追ってベランダへ出たがそこにはもうおっさんの姿はなかった。

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