2024.10 夢日記

10月

 気温の変化でどうにも眠りが浅くなる。

 忙しい時期で、ストレスも多かった。

 布団をかければ暑く、かけなければ寒い。上着を着れば汗ばむし、着なければ震える。夜中に腹がすいて、妙に目がさえてしまって、はだしの足では床が冷たいから。

 眠りは浅く、嫌な夢ばかり見た。


・のぞき込む

 窓から大きな顔がのぞき込んでいる。

 それは、夢のたびに性別も年齢も違う。皆同じなのはその大きさ。窓から横向きに私の部屋をのぞき込んでいる。大きすぎて、口元は窓に収まっていない。

 血走った目、左右非対称の目、白濁した目、黒い光彩がギラギラとした目、瞳孔の散大した目。まつ毛の多いもの少ないもの、まつ毛の長いもの短いもの、二重の物、一重の物。たれ目、吊り目。目じりにしわのある目、瞼の分厚い目、クマのある目、黄斑のある目。

 その目元は友人に似ているかもしれない、上司に似ているかもしれない、あのコンビニの店員に似ているかもしれない。

 どれもこれもがぎょろぎょろと私の散らかった私の部屋を物色している。

 鼻息で、窓が規則正しく白くなっていた。潮がひっきりなしに満ち引くようだった。

 その目は何を探しているのか。

 私を探しているのか。

 私はその顔を、目を凝視したまま横になっている。

 身じろぎしないのは夢だからか、それとも恐ろしくてできないのか。

 小さくでも動いてしまえば、今すぐにでも見つかってしまうのか。

 ゆっくりと瞬きをすると、その目もゆっくりと瞬きする。

 目が覚めるまで、私がそれを夢だとわかるまで、まんじりともせず、そいつと顔を突き合わせるしかない。


・泳げない・進めない

 見知った公園にいるのに、私はその公園にないはずの噴水の中にいる。

 あたりを見回すのに人はおらず、私は急いで家に戻らなければない。

 噴水はいつの間にか高い壁に囲まれた水路のようになっていて、私は水路の出口を探してさまようことになる。

 太ももの半ばまで冷たい水が溜まっている。

 水は透き通っていて、足に縋りつくように纏わりついた。

 足を引きずるように歩いていく。重く、体が思うように動かなかった。

 必死で水路の出口を探す。きれいな水の中で、錦鯉がスイスイと泳ぐ。

 その鯉の姿を見て、私も泳げばいいのだと思うのに肩まで水につかってみても、なぜかそうすると水が引いて行ってしまう。

 泳げないのだと思って、仕方なくまた歩いた。

 うまく歩けず、水をかくように動くしかなかった。

 だんだんと水は濁ってきて、泥水になっていく。

 水路は傾斜がついてくる。私は、高いところへと歩く。水が下流へ流れていく。それに逆らって歩く。

 足が重い、脛が傷んだ。

 薄暗い先に、明かりは見えるのになかなか近づかない。

 この夢は誰も助けてくれない。


・尋ねる人

 部屋の扉が激しくたたかれる。

 ドンドン、ドンドン、と大きな音が響く。

 アパートの扉をたたくその存在に、私は(隣から苦情が来るから早く立ち去ってくれ)と思う。

 扉は叩き続けられる。扉が揺れるので、部屋の小物がカタカタと揺れていた。

 扉をたたく音に交じって、何か呼ぶ声が聞こえる。

 声が一生懸命に誰かを読んでいるが、どうにも私を探しているのではなさそうだと思う。

 しかし、扉をたたくのはやめてくれない。

 私は成す術なく扉がたたかれるのを見ているしかない。

 隣の部屋から苦情が来やしないかと、壁に耳を当てていた。


・覆いかぶさる

 上の夢の続き。

 ドンドン、と叩いていた扉が今度はガチャガチャとノブを回す音に代わる。

 私の部屋の扉はノブではないのに、それは一生懸命ガチャガチャと回していた。

 ここは私の部屋でないと気が付く。

 見回すと、壁一面白い、荷物もない真っ白な部屋だった。

 ノブを回す音はますます大きくなって、とうとうノブごと扉が外れて、巨大な男が部屋の中に入ってきた。

 推定100キロを超えるだろうか。巨漢が体を左右に揺らしながら私に近づいてくる。

 細い廊下で詰まってしまいそうな体なのに、白い壁に体を押し込むようにして私の方へと迫ってくる。

 私は慌てふためいて逃げ回るのに、結局捕まってしまう。

 白い壁の部屋だったはずなのに、あたりはコンクリート打ちの冷たい部屋に代わっていた。

 男が私に覆いかぶさってきて、一生懸命に私のおなかをぐいぐいと押し込む。

 苦しさで息を詰めるので、そこで目が覚める。

 おなかを押し込まれている感覚が残ていて、気持ちが悪かった。


・扉を開けるな

 扉をたたく音に、部屋の扉のノブを回す音が混じる。

 扉の鍵はかけてあるので、安心しているが音が長いこと続くので、心配になって扉の様子を見に行く。

 ノブがガチャガチャと回り続けていた。

 突然怖くなって、扉にとりつく。

 扉を開けようと躍起になる何者かと扉を一枚隔てて、対峙する。

 緊張による手汗でノブをつかむ手は滑った。

 鍵がかかっているはずなのに、扉がだんだんと開き始める。私は全身の体重をかけて強く扉を引いて、外開きの扉を開けられないようにする。

 そのうちに、扉が内側にも開くようになってしまって、そこでようやく夢だと気が付く。

 だのに、目は覚めない。

 扉の向こうには、誰もいない。

 扉はガチャバタガチャバタとうるさい。

 誰もこの部屋に入れてはいけない。

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くだらないこと、いらないもの 八重土竜 @yaemogura

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