海に老いると
兄のお嫁さん。義姉から海老が届いた。
荷物に同封されていたメッセージカードには、
「海老が沢山捕れました。是非食べてください」
とだけ書かれていた。
もちろんありがたくいただく。
推定五キロの海老を消費するには、と考えながらまずは数尾をすくって殻をむいた。
胴体から頭を外して、足を毟る。殻も外せば立派な御馳走だ。
弾力のある身は甘くて非常に美味である。忘れず頭の部分もチュッとすすった。
一尾、二尾と食らって、随分大きな海老だなと気が付く。
見慣れているのは一皿百円のお寿司に乗った控えめな海老たちである。手のひらほどもありそうなこれと比べれば、赤ん坊と大人、いや海に老いると書くのだから老人だろうか。
また一尾裸に剥いてつるりと腹に収めた。
こんな大きな海老はどこの海生まれなのか、と海老の入った発泡スチロールを四方見回してみるが、手掛かりになるようなものはない。無機質な箱が無表情を貫いているのみだった。
机にとり残したままだったメッセージカードをもう一度ぺらりとめくる。僅かな潮の匂いに、義姉の実家が海の近くなのを思いだした。
ただ、ある一文が妙に引っかかる。「沢山捕れました」とは、どういうことだろうか。彼女の家はサラリーマン家庭であったように記憶しているし、親戚に漁師がいるなんて話も聞いたことがないのだ。その地域で海老が豊漁だった、という意味だろうか。
考えながらまた一尾剥く。
指先にピリリと痛みが走った。
硬い殻で切ってしまったらしい。たらりと流れる血の色が、海老の空とよく似ていた。
海老は鉄の味がした。
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