冬の艶

 冬の夜。影は消える。

 色とりどりのライトは、四方八方から照らしてくるので、硬いアスファルトまでもが、虹色を混ぜた白っぽい色になっていた。

 光のアーチがかかっている道を抜けて行けば、広大な土地のそこここに光る塊が群生している。

 なるほど、元はゴルフ場として使われていた施設を、冬だけイルミネーションに使っているのだというのだからその広さも納得である。

 関心に息を吐きだせば、白い影がふわりと残った。それを見て隣にな立っていた彼が押し殺したように笑う。押し殺していても白い息で見て取れてしまうわけだが。

 立ち止まっている私たちの隣を寒そうに身を寄せ合った二人組が追い抜いて行った。

「うわ、意外と広い。閉演までに回り切れるかな」 

「案外近いけど、来るのは初めてだからね」

「春は花見だ、夏は海だ。秋は紅葉ドライブ、冬はスキーと色々連れてってくれる君がなかなか連れて来てくれなかったからね」

「君が人ごみも寒いのも嫌いだからでしょ?」

「人ごみは認めるけど、寒いのはそんなに嫌いじゃないよ?」

「え? そうなの?」

「うん。着込めばなんてことないからね」

「こんなに膨れて……」

「君のご飯がおいしいから仕方ないね」

 冬の朝の雀のごとく、丸まっている私をポンポンと触って彼がニンマリと笑っている何か言いたげであるが、言ったら私が面倒なのを彼はしているはずだった。

 私が丸くなりつつあるのは、冬のせいで着ぶくれをしているというだけの理由ではなく、彼も指摘はしないが薄々勘づいているようであった。だから、最近メニューにサラダが増えたのだ。

「幸せ太りでしょう」

 と、彼の方を見てそんなことを言ってやれば、驚き余って次の言葉を逃している彼の姿があった。

 勘づいているくせに、何をそんなに狼狽しているのか。

「あ、えっと……」

「何?」

「き、気にしてるのかと思って……」

「そりゃ、いっちょ前に女の子ですからね? 気にだってしますけど?」

「だ、だよね……」

 彼が、大きく息を吐いたのが見える。息遣いまで見えるので冬は好きだ。

 顔が赤いような気がするのは、きっと電飾のせいで。彼が照れたりするのはあまり見たことがなかったから。

「こ、これからは気を付けるから……」

「そうだね。いくら好きだからって三日連続ハンバーグはどうかと私も思ったよ。デミグラスハンバーグに、おろしハンバーグ、煮込みハンバーグだったっけ? しかも、国産牛のミンチで」

「は、反省してます」

「おいしかったけどね」

「ほ、本当? また作るね」

「三日連続はやめてね」

 しゅんとして、気を付けますと呟いている彼の表情が面白い。

 四方八方から色とりどりが照らしているので、顔の凹凸に沿って出来上がる影は薄かった。

 足元を見れば、白っぽく光っているアスファルトの上にも薄っすらと影があるだけだった。 

 冬の夜。影は消える。

 

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