秋の風邪
ある夏。友人が一人減った。
彼は大変に心が広く、誰にでも親切で、それ故に色々な人から好かれていた。
とてもできている彼は、私のような怠惰で、情熱もなく、考えることはおいしい食べ物のことばかりという私にもとても良くしてくれた友人だった。
筆まめな彼は何くれと私に連絡をくれ、やれあれがおいしいだの、どこそこに行こうだの色々なところに連れ出した。特に去年の夏には週に一度はラーメンを食べ、飲み歩き、プールにも行った。
彼は特別私に親切で、よく気に入ったラーメン屋さんや、おいしいと話題のスイーツなんかを並んででも買ってきては私に食べさせてくれていたが、それもこれもかれもマメな性格がなせる業であり、尚且つ私は彼と特別舌が合うのだと思っていた。
それゆえに私はきっと彼にひどい事だってしたと思うのだ。
それでも彼は心が広かったから、何でも許してくれた。
愛想をつかされたって仕方がない私を許してくれていたのだろう。
何せ、彼は心が広かったから。
だが、今は怒りの顔が目の前にある。
いつの何を怒っているのか。見当もつかない。心当たりは多すぎた。ある冬の贈り物の件だろうか。それとも、ある誕生日のことだろうか。それとも、年に一度の記念日のことか。今朝こっそりと食べた彼のプリンのことが頭をよぎり、それのせいかもしれないと一人で納得してしまう。
熱に浮かされた頭はまとまりがなかった。
熱いのは苦手だった。夏は嫌いだ。人がいなくなるから。
ある夏、友人が一人減ったから。記念日は増えたのだけれども。
「だから、エアコンをかけたままでお腹を丸出しにしているからこんなことになるんだ。日中は暑いといったって、もう9月も半ばだよ?」
「……申し開きもございません」
「早く良くなってよ。次のデートは海でしょ」
「また、夏に行き尽くされたような場所を……」
「君が夏の海を嫌うからだろ?」
「だって、海は人がいっぱいいるし、暑いじゃない」
「それじゃあ、涼しくなってから行こう。イチョウの葉が落ち切った頃に」
「だったらイルミネーションがいい」
「海とそんなに変わらないじゃないか」
笑う声が聞こえて冷たいタオルが額に乗せられる。
友人が減ってから季節はすでに一回りしていた。
ある夏、友人が一人減った。
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