寝入り歯な


 ぎ


 ぎぎし


 ぎ


 ぎゅ


 ぎしぎし


 ぎぎぎーーーー


 また始まった。

 私は寝返りを打つ。

 眠れない。

 ここ数日不眠に悩まされている。

 何となく眠れないのだ、それでケータイをいじってしまう。そうすると、目がさえてまた眠れなくなる。無限ループだった。それに加えて、これである。

 二時か三時を過ぎたころ、ちょうど睡眠が浅くなっているのか、ギシギシと。硬い部分と硬い部分が擦り合わさって、すり合わせて。

 耳障りな音だった。私からしているわけではないのに、歯の奥がぎゅっと痛くなるのだ。

 そう何度もこすり合わせていたら、そのうち歯がなくなるぞと言っているが、本人は無自覚だから仕方がない。夢現というか、きっとまだ夢の中だ。

 こすり合わせる歯がなくなったら、今度は何をこすり合わせるつもりなんだろうか。歯茎か、それとも、頭蓋骨と頸椎でもこすり合わせるつもりか。レントゲンで見る骨を思い出して、自分にもそれがあるのだと理解すると、背筋に電気が入ったように鳥肌が立つ。感受性が豊かで申し訳なくなった。

 暗闇の中、裸のどくろが立っているような気がした。

 また眠れなくなる。

 手のひらサイズの四角い窓が明るい。

 歯ぎしりは、十分ほど続いて、一度十五分ほどの休憩をはさんでまた始まる。こんなパターンを知るくらいには聞いているのだ。

 起きている時に指摘すれば、「またしてました? ごめんなさい」とけろっとしていた。

 何をそう我慢することがあるのか。

 私が悪いか、そうか。

 一人の夜は後ろ向きな顔が出る。

 また眠れない夜を過ごす。

 ケータイだけが恋人だ。

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