夜も眠れぬ

 少し思い出した、少し昔の出来事である。

 夜も眠れぬような、心持ちなので、ここへ書き留めておく。



 避けられぬ用事があり、友人数人と知り合い数人と旅行に出かけた。行き先は南の島で、行きがけに大変楽しみだったのを覚えている。

 楽しみだったのは、私だけではないようで、行きの乗り物の中は何とも言えない浮ついた空気でいっぱいだった。

 友人数人の中に絵が上手いものがいて、暇さえあればペンを持っているような人なのだが、その人が絵を描き始めた。暇だったのだ。

 その人に誘われて、私も当時使っていたメモ帳にペンで拙い線で落書きをしていたのだが、そこへ声をかけるものがいた。

 知り合いの中の数人だ。

 決して仲が悪かったわけではないが、特別仲が良かったわけでもない。すれ違った時に挨拶をする程度の中であったし、私に至っては名前すら覚えていないようなそんな中であったのだが、その人たちは声をかけてきた。

 浮かれていた。確かに空気は浮かれていた。

 私は特別絵が上手いわけではない。ただ、特別下手というわけでもない。平々凡々な、そんな才覚であったが、なぜだろうか。

 その人たちに似顔絵を頼まれた。

 もう一度言うが、その場の空気は浮かれていた。南の島に思いを馳せて、皆浮き足立っていたのだ。もちろん私もだ。

 なので、承諾した。滅多に似顔絵なんて書かないのに、承諾したのだ。

 相手の顔を失礼にならない程度に見ながら筆を走らせて、決して上手くなく、かつ下手でもない絵を完成させてそれから、見せる。

 もちろん、相手の反応は芳しくなかった。

 なにせ、似顔絵なのだから。

「あー、似てるよね。顔、丸いところとか……」

 デフォルメという言葉を知らんのか。

「あの、特徴は、あるよね」

 似顔絵はもとよりそう言うものだ。

 そんな反応なら私になど頼まなければよかったのに、または、書く前に「とびきり美人に」と前おいてくれれば私だって気が使えたのだ。

 何を今さらそんなこと。

 似顔絵が何かを知らないのか。

 辞書を引け。





 という話。

 なら自画像書けよと思った。

 未だにそいつらの顔は覚えていない。

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