時間とペンと紙がある

時間とペンと紙がある。

それ以外は何もない。

時間は目には見えないが、それでも感じることができた。


時間とペンと紙がある。

ペンは普通のもので、黒のインクだ。

ただそれだけだ。


時間とペンと紙がある。

紙も普通のもの。ほんとに普通の平凡の、安くもなければ高くもない。市場価格の紙。

ただそれだけだ。


時間とペンと紙がある。

その場には透明な私と七色の私がいた。

七色の私が言う「書け」と。

しかし、透明な私には両の手がなかった。それどころか、その存在すらも怪しいものだ。

七色の私が言う「書け」と。

しかし、私には一文字も一言も一欠片も書けなかった。


泣く、とか怒るとかそんな事もできなくて、ただそこに立ち尽くした。


誰かが見えないはずの私の肩を抱いて「そんなこともあるよ。」と言った。

しかし、私は頷けなかった。

ただ、私は書けなかった。


時間だけが、その場に落ちていった。

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