私の体には虫が住んでいた

遠くない未来のために私は一つのものをその場にゆっくりと置いていった。

特別それに愛着とかがあったわけじゃないように思う。ただ、なんとなく気に入っていた。

それを持っている時の自分が好きだった。それがあることで周りと大きく違うところが出来ているところが好きだった。

しかし、今となってはそれは私から切り捨てられてその場に悲しそうに転がっていた。


「ごめんね。また、きっと来るから……」


私がそれに背を向けたとき自分の耳元でポキン……と音がした。

体の中の虫が動き出したのだ。


ポキン……パキン……


どうやら虫は骨を食い破って、私の脳髄までたどり着いたらしい。

きっと、一番美味しいだろう部位にたどり着いて大喜びしているんだろう。

私の脳髄の中で小躍りしながら浅ましくそれを食い出す虫を想像するとなんだか笑いがこみ上げてくる。とても滑稽だ。


パキン……ポキン……


耳元で響く音はどんどん大きくなっていく。

私の足元に転がったそれはいつの間にか灰色の何か気味の悪い塊になってしまっていた。


こいつ……なんだったっけ?


「それは昔のお前だよ。そのうち迎えに来た時には元の色に戻っているさ」


私の問いに答えがあった。

私の耳に穴から脳髄にまみれた虫が顔を覗かせてニヤニヤと笑っていた。


そう……私……またそのうち迎えに来てあげるからね。


「また、お前の決意が揺らいだときにでも見に来て話でもしてやるのがいいさ」


虫はそう言って私の頭の中に戻っていった。


ポキン……パキン……


再び音が聞こえ始めた。

私は歩き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る