第16話 勝利の条件と終わるシナリオ

床に落ち転がったデットリングの頭部はノウツの方を向いており、

目をギョロリと向き出し今だに敵意を見せながら歯を食いしばっていた。

「・・・負けたのが疑問そうな顔だなクソ吸血鬼。

よく聞きな、お前の敗因は最後に俺が間合いに入った時

血器を防がれた事だけじゃねぇんだよ」

力を使い切ったノウツは銀のダガーが固定された左腕を抑えながら

倒れるように座り込み銀のダガーを固定している白衣の切れ端を

解きながら視線だけをデットリングの方に傾けた。

「!?ならば!何が敗因だったというのだ!!」

「・・・3つだ。俺が勝つための条件それがお前の負けた敗因だ、クソ吸血鬼」

ノウツは固定されていた銀のダガーを白衣の中にしまい

右手の指を3本立てながら答えた

「何?3つの条件だと?」

「あぁそうさ、お前は俺ら人間を劣等種と言って

自分が吸血鬼であることを過信して隙を見せた。

その隙が俺が勝つために揃えた3つの条件に繋がった。

ただそれだけの話だ」

ノウツは右手の指を1本立て説明を始めた。

「まず1つ目、今のお前のコンディションでは血器を2つまでしか作れない事、

2つ目、お前の血器の全力で銀の杭を削るのにかかる時間・・・、」

最後の条件を話そうとしたノウツに対し眉間に

しわを寄せたデットリングの頭部が割って入るように聞き返す

「杭の削る時間だと?・・・どういうことだ!!」

「別に疑問なことじゃないだろ、俺の挑発に乗って

お前が放った3回目の攻撃」

"クッハッハハ!!いいぜ小僧貴様の言う通り全力で迎え撃ってやる"

デットリングは全力で迎え撃つと言った自身の言葉を思い出す。

「まさか、あの時俺が小僧の挑発に乗った事が

俺の敗因に繋がったと言うことか」

「あぁその通りだ、あの時お前の全力の攻撃で銀の杭を

削り切る時間を数えていたんだよ。

まぁ想定外の攻撃食らって俺もこの様なんだけどな」

負傷した左腕を見ながら抑え、最後の条件について話し始めた

「そして最後、血器を使っている時のお前の行動の制限

その3つの条件があったからこそ俺はお前に勝てた」

(この小僧、俺が血器を使用している時の行動制限まで見抜いていたのか。

クソ・・・あの挑発に乗せられた攻撃の後、俺に銀の杭を投げたのは

倒すためではなく確認の為だったとはな)

勝利の条件について話し終わる頃には切り離された身体から流れる

夥しい出血によりデットリングは意識が薄れて息絶える寸前だった。

(・・・クソ意識が、この俺が、こんなところで息絶えるだと?)

次第に薄れていく意識の中、最後の力を振り絞りピエロに向い声を荒げる

「おい!ピエロまだ間に合うそいつ等を今すぐ殺して

俺にそいつ等の血をよこせ!!早くしろ!!」

リイエンに投げ倒され横たわったままのピエロが愉快に笑いながら答える

「ひゃひゃははは・・・その要求は無理だね。

Mr.トゥウェイル君、君見事に首取れちゃってるしもう間に合わないでしょ。

それに今の状況で君が助かったとしても他の騎士の手で

殺られちゃうのは目に見えてるしね」

「クソ!!まだ俺のシナリオは・・・」

最後に声に出した言葉に対しピエロは冷たく返した

「ひゃひゃはは・・・君のシナリオはもうここで終焉さ

君はここで終わるんだよ。

そもそも君は最初からここで終わる運命だったのさ」

(!?・・・最初からだ・・・と?どう言う・・・こと・・・だ。

クソ、・・・意識が・・・)

デットリングが大量の出血により息絶え、

ピエロの前に立っているリイエンが視線を

ピエロの方に向け疑問を問いかける。

「動かずに答えてください。

もしも少しでも動いたらその瞬間にその血器を破壊します。

最初からここで終わるとさっき言いましたがどう言う意味ですか?」

「ひゃはは、何そのままの意味だよ」

「そうですか、では貴方はデットリングが我々に

捕まり尋問され殺される様、最初から仕組んでいたという事ですか」

「ひゃはは、やだなぁ~仕組むも何も最初から私のシナリオ通りだよ」

ピエロはリイエンの忠告を無視しその場にゆらりと急に立ち上がった。

「少しでも動いたら破壊すると言いましたよね」

立ち上がった瞬間にピエロの血器は手と足が一瞬で破壊され、

胴体と頭部だけが残り再び床に倒れ込んだ。

「ひゃははははは・・・さすが白銀騎士団副団長様、

いやここは杭師と呼んだ方がいいですかね?」

倒れ込むピエロの血器の前に立つリイエンの両手には

腕程の長さの銀の杭を持っており、

普通の銀の杭とは違い細く鋭い形状をしている。

ピエロの血器が立ち上がり、床に倒れる瞬間までの一部始終をノウツは見ていた。

(なんて速さだ早すぎるぜ、一瞬過ぎてよく見えなかったが、

ピエロの血器が立ち上がった瞬間、

リイエン副団長の両袖からいきなり杭が出てきて

ピエロの血器の両手足が破壊された・・・いったい何を)

「杭師ですか、まぁ昔はそう呼ばれていましたが、

今は白銀騎士団副団長としてここにいます」

そう言うとリイエンは右手に持っていた銀の杭を袖にしまい、

手足が破壊され床に倒れるピエロの血器の首を掴み持ち上げた。

「では最後の質問です。

あなたの本体は今どこにいるのか教えていただけますか?」

質問に対しすぐには答えず、部屋中に響くような声で愉快に笑う。

「まぁ、やはり答えてくれませんか」

「ひゃはは・・・まぁね、もし答えたらすぐにでも私を討伐するため、

白銀騎士団全団員もしくは白銀騎士団団長が直々に出向くことになるからね」

リイエンに首を掴まれ持ち上げられたピエロの血器は突然心臓部分が光りだし、

それと同時に全体に亀裂が入りパラパラと形が崩れていく。

「それに、察しがいいリイエン副団長様の事だから

私が今どこにいるのか、おおよその予想はついているんじゃないかな?」

そう告げるとリイエンの方を見ていたピエロの血器は

死闘を終え座り込むノウツの方をじっと見つめて話す。

「ひゃははは・・・Mr.トゥウェイルのことは残念だけど、

そこの君の短剣にリイエン副団長の力量が図れたんだ中々の収穫だったよ。

それに、その短剣・・・いや、その聖剣の欠片の厄介な能力、

君の名前を覚えておくよ。Mr.ノウツ君」

崩れ落ちていくピエロの血器、現れた時と同じよう愉快に笑うと

心臓部の光は次第に眩しくなり、薄暗い部屋の中を明るく照らしだす。

「それではリイエン副団長、Mr.ノウツ君私はこれにて、

次は私自身がお相手できる事を祈ってるよ」

「えぇ、私もサーカス団長である貴方の命を狩り取る

その時を楽しみにしていますよ」

「ひゃはは・・・そうそう最後に私のシナリオが面白くなるように

いい事を教えておくよ、次の騎士狩りのターゲット、

グレイメネス聖騎士団その副団長フーガ・グレイトメネス、

彼に仕向けたサーカスの団員はマリオネットとビースト、

君も名前くらい耳にしたことがあるはずだよ」

「何!?」

(・・・名前くらい耳にしたことがあるはずだって?

知らないはずがない。

2人とも上位の吸血鬼でサーカスの主要討伐対象じゃないですか)

リイエンの冷静な表情が一瞬で凶変する。

「!?・・・ノウツ君伏せて下さい!!」

リイエンがノウツに大声で伏せるように注意を促し、

それと同時にピエロの血器の光が部屋を包み大きな爆発を起こした。

ピエロの血器の爆発は大きな音と破壊力で地下室の壁と床に大きな傷跡を残し、

部屋中に煙が立ち込める。

「・・・クソッ、なんて威力だ。

リイエン副団長が血器の爆発に気が付かなかったら

完全に爆発に巻き込まれてたぜ」

爆発の直前、リイエンの言葉を聞きとっさに右腕で

顔を覆い伏せたノウツだったが、爆風によって部屋の

中央から壁の方まで吹き飛ばされていた。

(どうにか動けるか、リイエン副団長は?

爆発に巻き込まれたリイエン副団長はどうなった!?)

部屋の中を見渡し立ち込める煙の中に立っている影を確認すると、

ふらつきながらも向い急ぎ足で駆けていく。

「リ・・・リイエン副団長!!」

「・・・ノウツ君、怪我はありませんか?」

煙をかき分け近づいたノウツの前にはいつもと変わらぬ

余裕の表情をしたリイエンが立っていた。

「リイエン副団長こそ、大丈夫ですか?お怪我は・・・?」

爆発によって焦げた白いコートを軽く払い叩き

心配そうに見つめるノウツに笑顔で返す。

「えぇ、まぁ私はこの通り少し焦げたくらいで問題ないですよ」

「あ・・・あの爆発で少し焦げただけですか?」

「あのくらいで殺られていては白銀騎士団の副団長は

務まりませんよ」

左手に持った銀の杭を袖にしまい死闘を繰り広げた

ノウツの戦いについて本人に反省点を指摘する。

「デッドリングに随分苦戦したようですね。

君が聖剣の欠片を使ったことについては別段何も言いませんが、

ピエロの見てる前であれを使用したのは少しまずかったかもしれませんね」

「・・・すいません」

申し訳なさそうに謝るノウツを咎めることなく笑顔で返す

「いえ、使用すること自体は問題ないですし、

それで凶悪な吸血鬼を倒したならいいじゃないですか。

私が言いたいのはピエロがノウツ君の聖剣の欠片の能力を

見破ってしまった事とノウツ君が聖剣の欠片を所持していると言う事が

ばれてしまった事ですよ」

銀のダガーを白衣の内側から出して質問する

「・・・ところでリイエン副団長、

俺の持っているこの聖剣の欠片ってそんなにすごい物なんですか?」

「ノウツ君、君は自分の持つそのダガー以外の

聖剣の欠片と呼ばれている物を見たことはありますか?」

「いや、この銀ダガー以外見たことないです」

リイエンは自身の質問に対し、即答で返したノウツに聖剣の欠片について

話そうとしたが、地下室に向い慌ただしく走ってくる足音を聞いて、

怪我の手当てが済み次第自分の部屋に来るよう告げ、

入り口の扉の方を横目で見つめる。

「おや?さすがに少し騒がしすぎましたね」

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