第12話 死の輪のデットリングと愉快なピエロ

地下室の扉の前でリイエンとノウツは中年の吸血鬼についての会話を始めた

「副団長、あのクソ吸血鬼の野郎、

昨日指を全部切り落として腹に6か所穴開けてやったのに、

傷の直りがやたらと早くないですか?」

「まぁ、あの吸血鬼は上位種ですからね、

そこら辺にいる雑魚とは格が違いますよ。

しかし、いくら繋がれてるとはいえ何を

してくるか分からないので細心の注意を払って下さい。

ところで彼はここに来て今日で何日目ですかノウツ君?」

落ち着きを取り戻したノウツが質問に答える

「確か今日で4日目です」

「4日目ですか、ずいぶん耐えますね。

死の輪のデッドリング、さすが奇才揃いの吸血鬼集団サーカスの団員と

言ったところですかね」

「デッドリング?あの吸血鬼の呼び名ですか?」

「えぇ、本名トゥウェイル・ナクター。

多くの騎士狩りと無差別な殺しを快楽のために

行ってきた討伐対象の吸血鬼の1人です」

「あぁ、やっぱクズ野郎ですね・・・

今すぐあのクソ吸血鬼をバラして殺しましょうよ」

また人が変わったようにノウツは不敵な笑みを浮かべ、

リイエンに問いかける

「ノウツ君落ち着いて下さい。

それに最初に言いましたよね?

殺すのはレイン君の報告とすり合わせてからにして下さい」

リイエンが言い返すとすまなそうな表情に変わりノウツが謝る

「・・・すいません、もう大丈夫です落ち着きました。

そうでしたね、報告とすり合わせてからですよね」

「えぇ、期待してますよノウツ君。

やり方は任せますがやりすぎないように、

先ほども言いましたが細心の注意を払ってください。

それと、地下室をあんまり血で汚さないで下さいね」

(まったく、相変わらず彼は吸血鬼を前にすると人格が急変して

いつ貴重な情報源を殺してしまうか正直ヒヤヒヤしますね)

デットリングについての話が終わると、

厳重に閉ざされた扉を再度開け2人は殺風景な地下室へと戻り、

リイエンはまたもや椅子に腰を掛けその後ろにノウツが立つ

「お待たせしましたね」

デッドリングと呼ばれる男は楔に繋がれながらも余裕の表情を見せ口を開いた

「下らないおしゃべりは済んだか?間抜け共

・・・その間抜け面に免じて一つ教えてやるよ。

俺をどう拷問したところで情報はこれ以上話さない

いや違うな話す必要がない」

デッドリングの話を聞く素振りもなくリイエンは手に持った紙を見ながら

情報をまとめ出した

「あなたが昨日まで話した情報を整理します。

まず、あなたが吸血鬼集団サーカスの団員であり、

あなた方サーカスの集団が最近2つの聖騎士団を壊滅させたこと、

そして3つ目の大規模な聖騎士狩りが近々行われることは聞きました」

リイエンは持っていた紙を机に置き立ち上がる。

「そしてここからはあくまで私の推測なのですが、率直に聞きます。

3つ目の騎士狩りの標的はグレイメネス聖騎士団ですね?

そしてまず初めに副団長であるフーガ・グレイメネスを

騎士狩りの対象にした、間違いはありますか?」

余裕の表情を見せていたデッドリングの表情が一変して

リイエンを睨みながら小さく何度も頷いた

「面白い、間抜け面の割になかなか頭が切れるじゃねぇか正直驚いた。

聞かせろよ、なぜ次の標的がグレイメネス聖騎士団だと分かった?」

リイエンは笑顔を見せて返した

「我々白銀騎士団の優秀な騎士からの報告ですよ。

とある大農園で騎士狩りがあったという報告を受けましてね。

このタイミングで副団長が探索に派遣された事を合わせ、

私なりに考えた結論です」

少しの沈黙の後デッドリングは小さく笑い大農園の吸血鬼について質問をした

「・・・ククック・・・で?

その大農園で騎士狩りをしていた奴はどうした?」

「その方なら報告をしてくれた優秀なハンターが狩りましたよ」

「そうかそうか!!面白いことを聞いた。傑作だ!

奴はやはりただのオーディエンスに過ぎなかったか!」

「・・・オーディエンス、観客ですか?

あなた方サーカスはまるで台本に沿って行動する道化師集団ですね」

「台本に沿ってか・・・あぁその通りだ!

俺等サーカスにはそれぞれの役割がありシナリオがある。

そして俺のシナリオはこんなところで終わらない!!」

大声を上げ笑い出す男の方に向いノウツがゆっくりと歩き出す。

「こいつの話はどうも聞いてて嫌気がさす。もういいですよね?副団長」

「えぇ、レイン君の報告とのすり合わせも出来ましたし、

後はノウツ君のやり方に任せますよ」

ノウツはデッドリングの前に立つと楔に縛られ座っている

デッドリングの足を踏みつけ、

血の染みついた白衣の内側から長い銀の杭を取り出した

「・・・いいか、クソ吸血鬼よく聞け

今からこいつで死ぬまでお前を貫き続ける。

サーカスのデッドリングだか何だか知らねぇけど、

お前は俺ら聖騎士をなめ過ぎた。

今まで殺してきた騎士達の仇だ」

ノウツが杭を持った右手を振り上げた瞬間

デッドリングは大声を上げ大きく笑いだした。

「クハハッハハハァ!!ハッハァーハ!

やはり間抜けだな、さっき何を聞いていた?

俺を殺すか小僧?無理だ小僧貴様に俺は殺せない!!

いいか、俺のシナリオはまだ終わらない」

「・・・・!?まさか、下がってくださいノウツ君!」

ノウツとデッドリングのやり取りを黙って見てたリイエンが

異変に気付き突如大きな声を上げた。

デッドリングは鋭い牙を見せながらニヤリと笑い、

リイエンの声を聞きノウツが即座に後ろに下がった瞬間

爆発音と共に枷ごとデッドリングの腕と脚が吹き飛んだ

「チッ・・・なんだ、一体?」

ノウツはとっさに防いだ腕をゆっくり顔の前からどかすと、

辺りは血しぶきが舞い横たわったデッドリングのすぐそばから

愉快に笑う声が響く。

「ひゃははははっひーぃひぃひひっひぃ」

腕と脚を吹き飛ばされうずくまり横たわったデッドリングが

苦痛に耐えながら愉快な声の主と会話する

「・・・やっとか、遅かったじゃねぇか、

にしても俺ごと枷を壊すってのはやり方が酷すぎるってもんだぜ?ピエロ」

「ひゃはは・・・いやいや酷すぎるって?

捕まっちゃった君が悪いよ、Mr.トゥウェイル」

「おい!その名で俺を呼ぶんじゃねぇ!!」

「ひひひっ・・・あぁそうだったねぇ~これは失礼失礼。

それよりも私としたことが、紹介が遅れてしまいました、

白銀騎士団の方々私は皆からピエロと呼ばれている者。

どうぞお見知りおきを・・・」

ピエロと名乗る声の主は紹介を終えた後しばらくして

白銀騎士団副団長であるリイエンの存在に気付く。

「・・・んっ?ひひゃははは、おやおやこれは、

後ろにいるあなた白銀騎士団のリイエン・ランス副団長様ではありませんか」

「ほう?私のことを知っているとは、さすがサーカスの団長ですね」

ピエロの声が響いてしばらくすると

舞っていた血しぶきが晴れていき愉快な声の正体が露わになった。

「なんだ?・・・あれ、血の塊?」

デッドリングの隣には、赤黒く輝く血の塊が宙に浮き

舞っている血しぶきを吸収しながら少しずつ巨大化しているように見えた。

(まさか・・・ここでピエロとやりあうとは、仕方ありません私がやりますか)

「私の後ろに下がってくださいノウツ君。

今の君がピエロと戦うのは荷が重すぎますので私が相手をします」

血しぶきを完全に吸収し終わると赤黒い塊はだんだんと

人の様な形に変わっていき、やせ細ったピエロの姿に変わると

部屋中に愉快に笑い声が不気味に響き渡った。

《血人形の道化師ーブラッドドール・クラウンー》

「ひゃ~っははひぃひゃはは~っはひゃひゃっ~~~」

リイエンの後ろに下がったノウツは驚きの顔をみせながら質問した。

「副団長!?一体あれは、なんなんですか!?」

「いいですかノウツ君、あれは血器と言って

上位の吸血鬼が使用することができる特殊な武器ですよ。

自らの血液を造形、硬化させて作ることのできる上位吸血鬼の武器であり牙です」

「・・・血器!?吸血鬼の意思によって形や能力が異なる

吸血鬼が持つ特殊な武器・・・話には聞いたことはあるけどあれが武器?」

「驚くのも無理はありません。

血器は吸血鬼によって形状が違いますからね、

その中でもサーカスの連中が使う血器は特殊な形状な物が多いと聞きます」

リイエンが説明をしているのを聞いてピエロが愉快に笑いながら

デッドリングに話しかける

「ひひっひゃひゃ・・・聞こえたかい?

デッドリング、我々サーカスの血器はユニークな形状らしいですよ。

ひひゃひゃひゃ」

腕と脚を吹き飛ばされ横たわったいたデッドリングだが

すでに立ち上がれる程傷は回復しており、ふらつきながらも立ち上がる。

「おいおい、ちゃんと話し聞いとけよ。ユニークじゃなくて特殊だろ?

それに俺等は変わり者揃いだからな

・・・まぁあんたが一番変わり者だし特殊な血器だろうがよぉ」

「ひひひ・・・私が変わり者?そんなことないよ」

「謙遜すんなよ。まぁそんなことより

そろそろあんたに爆発された傷も完全に完治する。

あの間抜け面共をバラバラに刻み殺してやろうぜ!!」

デッドリングはまだ完全に完治していない右手で

自身の顔の半分を覆い自分の血を塗った。

その顔はまるで道化師のメイクの様で見開いた赤い目と鋭い牙は

その場をより一層緊張した雰囲気に変えた。

「あのクソ吸血鬼、もう傷が治りやがった」

デットリングの回復に驚いたノウツが目の前の吸血鬼を

睨んだまま声を漏らした。

「いいえ、時間が掛かった方ですよ。

全開状態の上位種の吸血鬼が回復に専念した場合もっと回復が早いです」

「全開状態だともっと早いんですか?」

「えぇ、デッドリングを拘束して4日。

彼は4日間血を摂取していませんし、ノウツ君の拷問を4日間受けて

回復速度も大分落ちていますからね」

(正直ピエロの血器と手負いのデッドリングぐらいなら私一人で余裕ですけど、

ここはノウツ君の実力を見せてもらうことにしますか。)

「ひゃはははは・・・じゃぁそろそろ時間も勿体ないし、いくよぉ」

ピエロは愉快に笑いなが一瞬でリイエンの前に立ち

鋭い爪を勢いよく振り下ろす。

リイエンは振り下ろされた一撃を見切ったかのように両腕で受け止める。

あまりの速さにリイエンの後ろで見ていたノウツが唖然とする

(なんだ?一体、今何が起きた?)

「⁉副団長・・・」

「大丈夫ですよノウツ君。

すいませんがピエロは私が相手しますので、

デットリングの方を君に任せます」

ノウツはリイエンの言葉を聞き一度目を瞑り、小さく返事をした

その雰囲気は人が変わったかの様だった。

「分かりました・・・任せてください」

ノウツがゆっくりデットリングの方へ歩いていく

「・・・やっとだ・・・おいクソ吸血鬼、

やっとお前をぶっ殺す事ができるぜ」

正面に向かい合うデットリングは大きく笑い言葉を返す

「クッハハハ!!これは傑作だ、いいぜ小僧!!

かかって来いよ貴様には永遠の苦痛を与えた後

その血をすべて吸い尽くし殺してやる」

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