第87話


「死体を使って吸血鬼を封印する魔法というのがどういうものかわからないが、それもそのうち効果は切れるものだったんだろう。だからエヴァさんは目覚めた。一方で今の今まで効果が持続していた、というのは繰り返し魔法をかけたか、引き伸ばしをしていたんだろう」

 ドーリーは続ける。

「魔法を繰り返しかける、となると何が必要になるか。死体だ。人の死体。でもそんなのは墓荒らしや戦場を歩き回りでもしなきゃあつまらん。しかし墓荒らしなんかはリスクがある。戦場でも昔ならともかく今はできる限り死体を回収して遺族や近親者に渡すのが一般的だ。首都じゃ昔から戦争なんかないしな」

 貴族や騎士団であれば遺族の補償や年金問題があるし、死んだらしっかりと家族のもとに返すか国が葬儀を行うということを一つの売りとして人を集めている。

 傭兵団もそれをまねることが多い。あと戦場に放置するのは仲間の士気にもかかわるし、国際的な立場というのもかかわるので、できるだけ回収する。これは大体の国で同じ。


「じゃぁどうやって消えてもいい死体を集めるか。ってなったら」

「自分で非合法の墓を運営するってか?とんでもない話だな」

「そう。身寄りのない人間の死体なんぞを集めて保管しておくだけだったんだろうが、首都の墓地事情で墓は金稼ぎに使えるってある日気づいたんだろう。で金稼ぎもかねて施設をどんどんと大きくしていった」

「でもそんな施設放置するんですか?金稼ぎの道具ですよね」

 三バカの疑問。それについては隊長が答える。


「それが意外とよくあるんですよ。裏金とか裏商売の扱いに困るって話が。税金がかからない金ってのはそのまま派手に使えるわけじゃない。確認されるとヤバいから隠すのにも手間がかかる。稼いだからやめよう、って思っても辞められたら困る客がいるわけで。そういう場合、大抵最後はビジネスが崩壊するか、夜逃げですね」

「それに首都墓地の整備も進みましたから、需要がどんどん減ったんでしょうね。見たら棺桶だけ残ってたりしていました。あの時は墓地を閉鎖する際に死体だけ動かしたのかと思いましたが、そういう墓地ならお金や身寄りがある連中は普通に引っ越したのかもしれません。それでも死体は必要ですから、金にならない身寄りがない人間だけでも集めるわけで。そうなると維持費もかかりますからね。国からの支援を架空請求していたってのはその費用なのかもしれませんね」

 隊長の言葉にVが補足。


「つまりだ、かつて一時代をつくった修道会も、一番の売りである吸血鬼退治はできず時代の流れで勢力は減り、表の稼業である学校はぱっとせず、裏稼業の墓地運営は成功して規模を拡大するが、その運営も時代の流れで成り立たなくなる。しかし吸血鬼を封じるための死体集めという目的があるから辞めるにやめられない。最後はほかの学校と合併に合わせた形で後のことは知るかと重要な書類も放棄してとんずら。で60年だか立って封印が解けて吸血鬼は復活で俺たちが無意味に悩むことになると」


ドーリーはまとめた。


「私は墓の中で随分と彼らを苦しめたようね。吸血鬼の呪いかしら」

 エヴァは何かにあきれたように笑った。考えてみると彼女が修道会を苦しめた問題の原因。

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