第79話

「隊長。やっぱり広すぎます。私たちの数ではカバーしきれません」

 食堂の一角に座っている隊長に対して、部下が報告した。

 後輩の伝言により外部への捜索は取りやめとなり、部下たちは急遽射撃場に集合、先遣隊を送って、その報告を受けることになる。

「どの程度かわからないか?」

「相当広い、以上の事はわかりません。一部崩壊してるので全容がつかめないのもありますが、この区画全体に広がっているといっても過言ではない、そんな感じがあります。今日や明日崩壊することはないと思いますが、それにしたってなんのための地下施設やら」

「はぁぁ、一旦団員をここに集めろ。本部に本格的な装備と応援の人員を依頼したから、到着後だ」

 隊長にしてみると、思いのほか大事になった、という気分。

 話を聞いても事件性を感じなかった。なので家出や駆け落ちならまぁ死ぬことはないと軽い気持ちで来たが、地下施設は崩壊の危険性がある。命知らずの冒険者二人のように、装備もなく入るのは危険だ。

 しかも入ってから3日だ。そうなると生きているかも怪しい。


「ここを本部として使いたいのですが」

「もちろん。ほかにも必要なものがあればなんでも言ってください。ですので」

「わかってます。早期発見を目指します」

 捜索には人がたくさんいる、と判断した時点で職員室から場所を動かすことにした。

 その際に学園長の判断で外部の人間が出入りしやすく、多くの人数を収容できるこの食堂が提供された。それに合わせて教師たちは手分けして机を動かしたりお茶を用意したり椅子を持ってきたり場所を作る。

 この手際の良さ。これはこの学校全体の統率力、というよりも学園長個人の指示と判断の良さがあるだろう。


「先生はこの学校に来て長いですか」

「えぇ、もう二十年になるかしら。教師の中では一番古株です」

「ではお聞きしたいのですが、今回見つかった地下施設について何かご存じありませんか」

 この地下施設については、少なくともこの地区を巡回している騎士団は把握していない。

 皇帝直属の騎士団でこれなのだ。なので公的情報はほとんどないだろう。こういう場合はそこに住む人に聞くのが良い。

これは隊長の経験則。彼もなかなか優秀。家に帰れば貴族の領地があるので、騎士団内部での出世欲がないことに目をつぶれば出世株の一人


「申し訳ございませんが存じ上げません。あの穴自体は昨年だったかに使ってない施設を解体した後に生徒が見つけた物ですが、本格的な調査には予算も人員も足らないため入り口部分だけ整備して封鎖しておりました」

「そうですか」

 そこに入り込んだか。まぁ子供に入っちゃいけないというのは入れと言ってるような物だ。俺もそうだった。というのは隊長の思い出。

「この学校の創設当時の引継ぎ書類などを調べさせておりますので、判明次第ここに伝えに来るように言ってあります」

 駆り出されたのは新人教師と司書、そして教頭。あと手が空いた教師たち

 この学校でも歴史と資料あさりに強い系の2人と教頭の指示で手あたり次第書類をひっかきまわしているが

「ただ如何せん資料の量が多くて。そこまで重要なものがあるかもわからないのでこれも長年放置されていまして。ですからいつになるか、そもそも判明するかもわかりません」

「そうですか。ならばできるだけ早めにお願いします」

「わかりました」


 そんな会話をしている時、壁からノックの音が聞こえた。

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