第77話

「はぁ。そういう事。私はどうしたらいいのかしら?」

 エヴァは話のあらすじに納得した上で、こう聞いてきた。

「あなた達を開放するのは吝かではないわ。聖騎士団とは関係ないみたいだしここに居ても仕方ないでしょう。でも私は、一応帝国に弓を引いた立場よ。あなた達が出てこの事情を話して、それでお咎めなし、討伐隊もなし、という訳にはいかないんじゃないかしら」

「100年も前の話だとどういう扱いになるのか分からないからコメントできないな」

 首都の修道会相手に一戦交えた、となれば現代であれば騎士団や従属する吸血鬼が集められて討伐になるだろう。

 しかし100年以上前の話だ。その被害や事件を証明するのも一苦労だし、した所でどう裁かれるかがわからない。直接の被害者はもういないわけだし、そもそも吸血鬼狩りの正当性なども考える必要もある。

「その、協定締結前なんですよね。その話」

 そこで三バカの一人が口を挟んできた。

「協定というのがよくわからないけれど、そういう話は知らないわね」

「協定締結前の吸血鬼と人間間の出来事は協定後は双方罪に問わない。ってルールだったはずですよ。確かですけど」

「そういう事なら、まぁ、お咎めなしになるのかな」


 協定以前の吸血鬼と人の関係は良い物ではなかった。正確に言えば

「底抜けに悪い」

「無干渉」

「よくわからないご近所さん」

の三択。


 吸血鬼は人の形をしているが、動物の血を飲みながら暮らす。

 と言っても世間でよく言われているように人の血を飲む必要はない。牛や豚。サル。その他諸々の血でよい。

 その動物の中に人間も含まれているというだけ。

 また吸血鬼が人間の血を飲むと吸血鬼になるという話もあるが、これは俗説。

 吸われた所で吸血鬼になることはない。牛の吸血鬼なんか見たことないだろう。

 実際は吸血鬼の血を飲むことで吸血鬼になる。


 このような実情はあるが、そんなのは人間にしてみればどうでも良いこと。

 怪物退治討伐は金になる。名誉になる。国からの補助が出る。

 だから倒す怪物はできる限り凶悪なほうがいいし、悪い怪物が居なければ適当な怪物を作ってしまえばいい。


 一方で吸血鬼は吸血鬼で、人間に対しては結構な扱い。

 夜な夜な町に下りてきては人を襲う。

 田舎の女子供を殺して血を吸いつくす。

 牛や豚でもいいとは言え。牛や豚を追いかけまわしても面白くない。

 それに人間は金を持っている。殺せば金になり、衣食住すべてを満たすことができる。

 人間と違うのは適当な理由で怪物を作る必要がないというだけ。


 このような状況だったので、協定を結ぶにあたって「双方ともに過去の罪は問わない」というルールが制定された。

 それで泣いた人間や吸血鬼は大勢いるが、それで喜んだ吸血鬼も人間も大勢いる。

 それも昔の話だ。大勢にとっては歴史の授業で子供たちが暗記する一つの話でしかない。

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