第70話

「ごめんごめん。あなた達じゃ入れないわね」

 そう言って扉から頭と手だけだした女。

「手を握って」

 大人しく従う二人。

「目をつぶって。〰〰〰」

 ドーリーは特殊な魔法の類だろう、と思ったが、魔法を使えるVはもう少し複雑な理解をした。

 古代、すくなくとも大戦前の魔法だ。しかも人間の者ではない。


 魔法にもいろいろな流儀ややり方がある。

 エルフやドワーフ、吸血鬼、巨人など異種族が行うもの、人間が行う者でも国や地域によってかなりやり方が違う。

 Vが使う魔法は帝国では広く使われるものだが、これも学校で公式に教えているから広まっているだけ。それにしても職業や使いどころによってさまざまな工夫がされるので千差万別。

 冒険者は自分の仕事に合わせて調整、Vの杖がないスタイルもそのうちの一つ。他にも騎士団や傭兵団、修道会や教会などの組織の中で魔法の運用ルールを定めているので結構違いがある。

 なので魔法について知識があり呪文の理解ができる人は呪文だけでどこの所属かなどがわかるし、物語や歴史書に書かれている呪文の特徴からその年代や地域を特定する方法も考案された。


 その授業の途中で中退することになったVの知識に基づけば、女の呪文は大戦前の相当古いものだ。

 それはまだ帝国主導による魔法の効率化やマニュアル化がされておらず、個人の知識と才能に威力や効果が左右されていた時代。

 帝国における効率化とマニュアル化は大衆に魔法技術が広まること、それに基づく魔法研究の発展という利益を得たが、攻撃の威力が減るなどのデメリットももたらした。

 と言っても

「国を一つ潰せる魔法なんか危ないし使い道もないから一応記録だけしておくが国の許可がなければ教えない」

「1000人を生贄にささげることで一人を死の淵から復活させる魔法はいまどき使えない」と言った

「伝説には名を残すとんでもない威力だが実用性がない。むしろ利用するにはかなりの危険性があるレベルの魔法は排除して実用性重視の技術に調整しなおした」

というだけなので、だれも気にしていない。


 100年に一度しか活躍しない魔法の神様が居なくなった代わりに、1年中活躍できる強い人間がたくさん現れたんだ。


 とは昔ならった学校の先生の言葉。

 若い先生で面白い授業だったが、最後まで授業を聞く前に退学してしまった。


「目を開けて」

 その言葉で目を開けた二人。

 部屋の中だ。壁に作られた暖炉で火が焚いてあるのであかりに問題はない。

 かび臭い絨毯に机。その上に並べられた食べさしの食器。ほかに飾り気はなにもなし。

椅子もないのだ。

 そして

「助けにきてくれたんですか!!」

「やっと助けがきた!!」

「帰れるよね!!」

と騒ぐ三人の女学生。それを見たドーリは一言

「お前ら何をやってるんだ」

 

 ドーリーの疑問の答えは以下の通り。

 1人はあぶない手つきで料理。。

「生きた鶏をさばいたことなんかないんですよ。暖炉の火でどう料理するんですか」

 一人は繕い物。

「ほつれた裾くらいはなおせるって言いましたけど上着を作れなんて無理です!」

 一人はモップを使って床を磨いている。

「どれだけ磨いてもきれいにならないんですけど、このシミなんですか」

「それはたぶん腐敗した人の油ね」

「いやぁ」

 つまり三人とも労働をしていた。


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