第66話

 首都の拡大は人口の増大と経済の発展そして国力の発展とともに進んできた。そしてそれは「首都で死ぬ人間の増大」「土地不足」という結果をもたらした。

 それは「墓地不足」つまり「死体を埋める場所がねぇ」という極めてどうしようもないながら重大な問題につながることになる。

 特に貴族階級は遺体を埋葬せず地上に安置する霊廟を作るのが古くからの伝統であり、首都の拡大によって増えていた「裕福な庶民」「首都の文化や宗教に感化される諸民族」によりその需要は増え続けていた。

 その対策として生み出されたのが地下墓地だ。

 首都の建設で使われる資材は地下から掘り出されることが多く、その空いた空間は地下室として使われることが多かった。そこに霊廟を作ってしまうということだ。


「大規模な地下墓地は首都地域でも古い時代に流行ったものです」


 地下墓地はある程度の成功を収めたし、今でも霊廟を作るのであれば土地の価格が高い地上ではなく地下に作るのが一般的だ。

 しかし二人が今いるような大規模な地下墓地は現代ではあまりみない。


「崩壊の危険性があるからな」


 大規模であればあるほど管理や造営が難しくなる。その結果崩壊し地上部分にも影響を与える事例が発生した。

 そのため大規模な地下利用については国の規制が入ったし、それに合わせて地下室というのも減っていった。そのためこういった大規模な地下墓地は徐々に姿を消していくことになり、今は大昔からあるのを改修と保全しながら使っている大規模地下墓地か、貴族が特別に作らせる小規模な霊廟くらいしかない。


「放置された地下墓地。墓参りに来る人もいないか」

「というより、移転したんじゃないですか?」

 もう一つ別の部屋を開けたVが言う。

「こっちには棺もありません。中の遺体だけ回収して、首都墓地に埋葬したとかでしょう」

 首都墓地とは地下墓地の減少に伴って国家事業として行われる首都北部にある共同墓地の事だ。

「そうなればあとは朽ちていくだけ。そういえばここはもともと教会だったから、その時の施設かな」

「だとしたら相当古いですよ。下手したら大戦以前です」

 Vは壁にかけられていた吸血鬼退治の絵を思い出して言った。

 ちなみに彼らが言う大戦は150年ほど前の出来事。

「100年も放置されてたらもっと崩れ落ちてるはずだ。昔から徐々に拡張と整備をしていったとかそんな感じじゃないか」

「僕の記憶が正しければこの区画の設立が大体80年前位ですけど」

「計画開始が80年前だろ?役所仕事なんざ計画開始からも時間がかかるもんだし、ここは修道会の連中が立ち退いた後に学校にしたって話じゃないか。立ち退きは時間がかかる。もしかしたら立ち退いた最初の頃は管理されていたかもしれないし、実際は放置されて70年か60年か、そんなもんだろな」

 Vも言われるとそのくらい放置されているという感じはするという風情の墓場。

「まぁ、古代のモンスターが居る。って感じではありませんね」

「この国最強のモンスターは役所さ。あいつらには誰も敵わない」

 そう言って探索を続ける二人。

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