第64話

 一旦扉の外に出てきた3人。

手には三人分の鞄。中は授業の道具だろう。地下迷宮探検には要らないもの。

「ここですね。どうします?」

「騎士団がかかわってるならそっちに任せる。という訳にはいかないか?」

「普通ならそれで良いと思いますけど、冒険者ですよ?」

「冒険者なんだよなぁ」

 

 冒険者というのは「危険な業務を請け負う」仕事。

 なので業務に関連したことを安易に騎士団に任せてると冒険者としての評判に関わり仕事に影響がでる。そして組合から怒られる。

 しかしダンジョン(そもそもダンジョンか分からないが)や危険ごとに首突っ込んで問題が起きると危険に対応できないと、技量が足らないとして、これまた評判に関わるし組合から怒られる。


「ここは冒険者らしくダンジョン探検だ!!って感じですか」

 能天気な後輩の言葉。

「そこまで自由気ままなお仕事じゃないんだよ。冒険者も」

「そうなんですか。自由じゃないんですね。みんな。どこも」

「みんなって?」

「先輩がたまにこぼしてますよ。もう自由がなくなるのかって。卒業したら貴族の家に嫁入りが決まってるから」

 後輩は言う。

 貴族への嫁入り、というのは階級と金とプライドが支配する世界に入るという事。

 そこにあるのは名誉であり自由ではない。

「この国は革新的なところと旧弊なところが入り混じってますからね。ここの生活に慣れたら結婚が人生の牢獄に見えることもあるでしょう」

 Vはそんなことを言い

「ただね。どこも住めば似たようなものですよ。あとはそこでどう暮らしていくかしかない」

そう続けた。


「まぁ、少しばかり、見てみるか?」

「そうですね。先遣隊くらいはやっておきましょう」

 少しの相談で二人はそう決めた。

 そしてそこに居たもう一人に指示を出す。

「あなたは職員室に行って、先生にこのことを話してください。学校の先生方じゃ無理でしょうから、騎士団に応援を頼むように伝えてください。このかばん、持っていけば信じてもらえるでしょうから一つ担いで」

「わかりました」

 その指示を聞いた後輩は鞄三つを担ぐ。

 その代わりに自前の荷物はその場においておく。また取りに来るつもり。

「まぁいいや。武器、ありますか?」

「いるかな?」

 そう言って懐から大きなナイフを取り出すドーリー。

 短剣とまではいかないが、長めの包丁という感じ。

「これくらいしかない」

「そんなのいつも持ち歩いているですか」

「商売柄な。杖一つ持たなくても何とかなるお前とは違うんだ」

 そう言う意味ではVの魔法スタイルは極めて実践的。身一つで現地入りしても仕事ができる。攻撃ということができないので仕事の幅が狭いが。

「まぁ冒険者稼業ですからね。実践大事」

 Vはそう言ってそこらへんに落ちていた太めの木の枝を二本拾い魔法をかける。

 先端が光り、松明の代わりになる。一本はドーリーに。

「行きましょうか」

「だな」

「お気をつけて」

 二人に対してそう声をかけた後輩は、鞄3つを担いで走っていった。

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