第28話
「えっと、どういう」
「だから説明しにくいって言ったろ。その場にいた俺ですらわからないんだから。ここ一か月、団長さんのおかげですって畏まりながら雑用を頑張って、医者に通って怪我を治しててさ、つい数秒前まで、短い間でしたが、って挨拶したりで団長や事務方とやいのやいの言いながら団から借りてた鎧兜の返却なんかしてた男が最後の書類に自分の名前を書こうって時にさ、ペンをこうぎゅっとつかんで自分の首を何回も刺し始めたんだぜ」
ドーリーは身振りで伝える。生徒は沈黙。
「俺たちは悪魔でもみる感覚さ。それでも団長や俺が飛びついてどうにか止めてな。医者に担ぎ込んで命はとりとめたが、それでも事あるごとに自殺しようとする。飾ってある花瓶をたたき割って首を掻き切ろうとしたりな。その一方で、本人はなぜそんなことするのか全く分からない、気づくと腕が勝手に動くって言うんだ。俺達にしたっておなじさ。戦争で死にかけて、死にたくないってんで傭兵団をやめたい、しかもトラブルなく金をもらって除隊できますって男がなんでそんなに死にたがるのか、思い当たる節がない。かと言ってこのまま放りだしてよくわからないまま自殺されちゃ傭兵団の評判にかかわる。で、困りに困って、団長の伝手でとある教会の聖騎士団に見せた。聖騎士団いっても教会内の風紀取り締まり班みたいなもんだが、そこは医療部門も兼ねてたし、悪魔付きの類なら教会にでも頼むしかない。そこでわかったのが、他人の腕をつなげた結果が起きたことだってことさ」
「そこの責任者曰く、そもそも同時に何人もの人間の腕が吹き飛ぶだと切り落とされるなんてことはめったに起こらないし、腕をあえて別人につなげる必要性もないから、自殺しようとする原因はまだわからない。ただ魔法で自分の体以外のものを無理やりつなげるわけだからそこで何か無理が起こって自殺しようって気になるんじゃないか、とは言ってた。こんな答えでいいかな。あぁ、そいつは結局、外科的な技術で腕を切り落としたよ。団から結構な額の見舞金、というか口止め料わたされて田舎に帰っていった。治療ミスなんて傭兵団の宣伝には向かんからな」
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