第29話
ここ3日で定位置となりつつある食堂の片隅。
そのVとドーリー。
「はぁ」
ドーリーのため息。
「お疲れですか」
「気苦労だよ。3日で何教えりゃいいんだか」
問題となる「大会」は来週の頭に行われると聞いている。ここまで差し迫っていると、基本的なことを教えるとかいう段階ではいない。
つまり、彼女達の弓を見てちょっとしたアドバイス、ってことになると思うが、具体的に何を教えるべきかと言われれば、わからない。
だから困っている。
「まずは情報収集でしょう」
それに対してVは気軽にそういった。
実際気軽だ。これについては基本ノータッチ。暇つぶしに遠巻きに見させてもらいますくらいな物。
「気軽なもんだな」
ドーリーがそう言って、何か皮肉を飛ばそうかとしたときに二人が入ってきた。
「先生!よろしくおねがいします!」
「おねがいします」
人の考えも知らず元気よく挨拶。その声にかき消された皮肉は、顔に現れた。
「えぇ、まぁ、とりあえずだ。見せてもらおう」
二人に連れられて学校の外に連れ出されたドーリー、それについていくV。
連れてかれた先は「射撃場」と書かれた看板が立った廃墟に近い場所
「射撃場?射的場じゃなくて?しかし手作り感あふれてますね」
射撃場、という看板は木の板に手書きした物。床と的の向こうに設置されている壁は煉瓦だが、それだけで他に屋根と呼べるものはない。壁の前に積まれている矢が的から外れた際の対策のための土嚢には「災害時用」と大きくペイント。荷物を置くボロい机はあるが椅子はない。
「実際、殆ど私達で作ったんです。その机は他の学校で買い換えるから捨てるってやつをもらってきました」
「この煉瓦も?」
「床は元々です。あっちの煉瓦は競技会で友達になった学校の先生が、実習って事で生徒のみなさんと一緒に作ってくれました。当然私達も手伝いましたよ」
世の中にこの冒険者二人と違って、女二人、学校からの大きな援助もなく競技会に参戦する学生なら無償で応援したいという大人もいるのだ。
それにこの地域は学校が集まる特殊な場所。その中には生徒に建築技術を教える学校もある。そして生徒の実習は面倒事の一つ。意味もなく煉瓦の壁を学内に作るより他校の整備の方が有意義というもの。
「ここはもともとなんのよくわからない廃墟だったんです!倒壊の恐れありとかで壊されたらしいんですけど、誰も使ってなかったので私達が勝手に改造しました!」
「勝手にってね」
Vがそんな会話をしてるとき、ドーリーは射撃場を見ていた。
的までの遠さは、一般的な練習場よりまぁ気持ち短いかな程度。必要最低限の設備はある、いや、しかないというのが正しいか。
これで大丈夫かね?という率直な感想は口に出さない。
ドーリーの予想はいい意味で外れた。
とりあえず見せてもらおう、という事で二人が始めた射的。
先輩の方は教科書通りに構え、教科書通りに狙い、教科書通りに撃つ。
成績も中々。中の上くらい。実際競技会での成績も
「上位の人が休んだり調子が悪ければ表彰されることもあるかな。くらいです」
というものらしい。でも優勝はしたことがないらしい。その程度の実力。
後輩の方は中の下くらい。ただ速射の方は自慢なようで、先輩が一回的にあてる間に三回放つことができる。実際この界隈の速射を競う競技では常にトップ争いをしてるとのこと。
しかし
「速射競技って学生の大会だとおまけみたいなものなんです!」
なのであんまり評価されることはない。
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