第19話


「これは」

 教頭との話をさっさと切り上げて食堂に行く途中で、Vは壁にかかっている宗教画の前で立ち止まった。

 この学校の制服と同じような服装、といっても着ているのは男だ、が多数で剣や杖を持ち一人の怪物に立ち向かう絵。

 人型、長い爪、古い時代の男性の正装。そして血まみれの口元。

「吸血鬼、だよなぁ」


 上級モンスターの一角に分類される怪物、吸血鬼。

 吸血鬼については首都の貴族社会で「変人」「よくわからない」の評価を得ている。

 学会ではお堅い言葉で「よくわからない変人が多いけど、喧嘩を売るべき相手ではない」という評価がされている。


「随分と昔の絵なのかな」

 Vの知識では吸血鬼は大戦と同時期に世界中の国と協定を結んだ。内容は「各個人の意思でどこの国と協力関係を結ぶか決める」というもの。

 その結果として帝国に従属した吸血鬼の中でもハイクラス、要は成功した金持ち連中が現れ、社会の端っこで吸血鬼達の社会を作りながら帝国で暮らしている。


「あなた、その絵に興味あるの?」

 そんなことを考えていたVに後ろから話しかける声。

 Vは振り向いて確認。

 老婆。身長はかなり小さい。大柄と自慢できるほどではないVに対しても頭一つか二つほどの差がある。ここの女子生徒と比べても小さい方だろう。

「え、えぇ、ここまで見た中でこの絵だけテーマが違うというか、そういうものが違うなと思いまして」

 身なりと品はかなり良い、という事はこの学校の関係者か教師だろうと見込んでVは多少マナーよく振舞おうとする。

「ふぅん、どう違うと思ったの?」

「えぇっと、他の絵は古典的で保守的なテーマですよね。神話や教典をテーマにした、教会に飾ってあるようなおとなしい絵。あとはこの学校ができてからの記念日とか、大会で優勝した生徒を祝して、みたいな学校に関する絵でしょう。これは、なんて言うべきなんでしょうね。古いんだけど、テーマが全く違って好戦的だ。大戦以前に描かれた吸血鬼狩りの絵ですよね。服装から見ると、この学校ができる前にあったっていう修道会の絵ですか?」

「なんで大戦以前とわかるのかしら?」

「仲間に吸血鬼が居ません。大戦以降の吸血鬼狩りなら仲間に吸血鬼がいるのが一般的ですから必ずと言っていいほど書かれる」


 実際大戦以降でも悪事を働いたり人間社会になじむ気がなく乱暴の限りをつくす、もしくは敵国の吸血鬼と言ったものを対象に吸血鬼狩りというのは何度も行われているし、冒険者に対して応援の依頼が出される例もある。

 しかし真っ先に皇帝から要請が出されるのは貴族社会の吸血鬼たち。

 なので同様の画題で新しく書かれる絵ではかならず吸血鬼が書かれるし、仲間として吸血鬼が書いてある絵は比較的新しい絵と言い切っていい。


 こういった知識は冒険者商売で意外と役に立つ。依頼主が金を払わない場合やパーティーメンバーが使い込みした場合はそいつが持ってる金目の物で払ってもらう、という事も珍しくないのだ。それに彼は昔少しだけ絵を齧っていた。


「100点満点ね」

 老婆はそう笑って

「あなたはどこの学校の生徒?顔が良いからうちの生徒の彼氏さんかしら?ここは部外者立ち入り禁止だから本来は親御さんか学校に連絡する所だけど、あなたはよく勉強しているみたいだから許してあげるわ」

と続けた。

 これが本題。要は「今回は目をつぶってやるから大人しく出てけ」という事。

「あぁ、いえ、私はそういうわけじゃなくて、冒険者組合の方から派遣された冒険者でして。こちらの学校のご依頼で今日から講師をさせてもらっている、頂いている?まぁヴィリアと言います」

 老婆は驚いたような顔をして

「あら、やだ、あなたが例の冒険者さんなの。ごめんなさいね。若いから学生さんかと思って。たまにそういう子が忍び込もうとするのよ」

そう言ってまた笑い自己紹介。

「私はここで学園長をしているものよ。よろしく。これからお昼かしら?」

「えぇ、そのつもりです。パーティーのメンバーがここの食堂で食べてるので、そこで合流しようかなと」

「なら私もご一緒してよろしいかしら?」

 取引先の一番偉い人から食事のお誘い。それを断れると思うか?少なくともVは断れなかった

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