第4話

「まぁ話を戻しましょうか。読み書きができて講義聞いてるなら基本試験なんかそうそう落ちませんよ」

「そうは言ってもなぁ。試験やってるとよくわからなくなるんだよ。以上と超えるの違いとかさ。なんというか緊張しちゃうんだな」

「あぁ、そういう感じですか」


 Vが言ったように一日かけてやる講義をまじめに聞いて、読み書きができるなら基本試験はそうそう落ちない難易度に設定されている。

 ただそれでも落ちる人はいる。そもそも試験が苦手な人だったり、法律に基づく細かなルールがわからない人、あと認定試験の独特な言い回しになれない人。

 要は試験慣れしてないのだ。


「こればっかりは試験でなれるか、勉強するしかないでしょうね」

「そうだろうなぁ。でも俺は今まで現場働きしてきた身の上でさ、勉強が得意ってわけじゃねぇんだよ」

 冒険者業界はドーリーのように、教育を受けるよりも現場で働いてきた人間が多いので、基本試験でも落ちる人は一定数いる。

 むしろ学校中退というVの経歴が異色といえる。

「何回か挑戦してみたらどうです」

「金も暇もねぇよ。生活があるんだ」

「ですよねぇ」


 認定試験を受けることによる具体的なメリット、というものは存在しない。

 ただ履歴書に書けるのでパーティーを組む際や依頼を受ける際に自分の実力を示しやすく、良い仕事にありつける可能性が高くなる。

 だからといってそれだけやっているわけにもいかない。それに受験料もかかる。

「どうにかならんもんかね」

「ならんでしょうね。こればかりはまじめにやってくしかないでしょう」




「ドーリーさん、あ、Vさんもいましたか。丁度良かった」

 二人とも話しても気分が上がらない話題しかない、という事で早いが晩飯でも食いに行こうか、それより芝居でも観ませんか、あの女優がでる芝居の初演が今日なんですよ、あの女優はちょっと芝居が下手すぎるだろう、という話になった所で二人に声をかける人が一人。

 組合の若い受付嬢。冒険者業界の顔であり、仕事も山ほどあり、よくわからん連中もよくくるので田舎の事務所と違って首都の組合では受付嬢や警備員、事務員なども数多く雇われている。


「お久しぶりですね。依頼はどうでしたか?」

「そのうち正式な報告が来ると思いますが、大失敗も良い所ですよ。赤字だ」

「あぁ、お疲れ様です。まぁご無事でなによりで」

 即席や臨時パーティー、常設パーティーでも新人の集まりのパーティーではこれよりひどい大失敗など珍しくない。なのでこんな反応。

「ドーリーさん、依頼されていた弓の認定試験の試験テキストです」

「お、ありがとう。言われるがままに選んだけどいいのかね」

「初級から上級までのセットテキストですから使えると思いますよ。代金は」

 受付嬢が値段を言う。本としては結構な値段。

「高くない?」

「弓の認定試験教本は買う人があんまりいないんですもん。これでも採算とれないって話ですよ」

「そうかねぇ」

 そう言って代金を払う。


「それとですね、お二人に対して組合長がお話があるそうです」

「組合長?」

「首都組合のトップですよ。で僕ら二人?」

「そうです。お二人が戻り次第呼ぶようにと」

「呼び出し食らうようなことはしてない、いやしてるな」

「先の話ですかね」

そんなことを言って、受付嬢について談話室から出て行った。

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