さゆりのこと

 私とさゆりは双子でした。一緒に生まれて、一緒に育って、一緒に電車にひかれました。でも私だけ助かりました。病院で目が覚めたとき、さゆりが見えました。宙に浮いていて、天井の蛍光灯がさゆりの体越しに透けて見えていました。だから、さゆりは死んだんだと思いました。

「さゆり」

 そう呼びかけると、さゆりは笑って消えました。

 私は気付いていなかったのですが、そのとき私の周りにいた大人たちは生き残ったのがさゆりなのか私なのか分かっていなかったのです。だから、意識を取り戻した私に自分の名前を言うように話しかけていたのでした。そうとは知らずにさゆりの名前を呼んでしまった私はそれ以来さゆりになり、今までの私は死んでしまいました。

 さゆりを線路に突き落としたのは私です。私を線路に突き落としたのはさゆりです。

 さゆりが消える前に笑った理由がよくわかります。私は最後までさゆりに勝つことができませんでした。

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