旅する函職人
多くの場合、立体ホログラム映像の技術は、動態画・静止画の別を問わず、現実の風景を撮影して記録するために使われる。
しかし、ホログラム映像の記録に用いる多板回折レイヤーにコヒーレント
古くは
現代のこの世界でも、何人もの
まだ見習いの
だが、彼が個人的にこつこつと作って発表した、あるシリーズ作品が予想外の高い評価を得たことから風向きが変わった。
それは、
南方へと向かって夜空を飛行中だったり、荒野に放置されて朽ち果てていたりと状況は様々だったが、ホロブリックの透明な直方体の中に封じられた
非銅系アルミニウム合金の鈍い輝きと、そこに無数に打ち込まれたリベットのざらっとした感触に、ベネットは特にこだわっていた。
ところが、彼が属する
元々ベネットは、
大企業の傘下にある権力機構という矛盾の中で、組織の歯車として働くことに彼は疲れてしまい、ついにはその職を辞することになった。そして改めて、若い時からの夢だった
なのに、結局のところ当局も
もう、
全ての
ベネットの作品は、行く先々で歓迎された。ホロブリックの流通は
しかも、作品のモチーフとなっている
しかし彼としては、旅の途中で見聞きした様々な風景を立体ホログラム映像として封じることに、何よりの喜びを感じていた。
巨大なクレーターの底に発展した街。珊瑚が採れる美しい湖や、一年中吹き荒れる嵐の中に重耐候アーケードを建造して住む人々。世界は不思議に満ちていた。
旅先の宿の一室で、または時には
各地の風物を封じたそれらの立体ホログラム作品も、一部は現地で売りに出して、まずまず好評だった。だが、最も気に入った作品群については、ベネットは決して手放そうとはせず、手元に置いていた。
ベネットのそんな活動は、五十代の半ばにして突然終わりを迎えた。旅先の小さな
その頃には、
家も家族もないベネットの遺品、愛車のくろがね三輪に積まれた数個のジュラルミントランクは、
彼が専任書記として勤めていた最後の頃に、新人として仕事を教えていた部下が、今ではちょうどその室長となっていた。
トランクには、名高い
そして、最後のトランク。その中には、ベネットがついに手放そうとしなかった、あのホログラム作品群がぎっしりと詰まっていた。
作業室の床にずらりと並べられたホロブリック。そこには、各地の美しい風物がそれぞれ小さく圧縮されて封じられていた。
つまりは、広大な
作品群は文化財に指定されて、広く知られることになった。ホログラム芸術の、まさに最高峰。
それが彼の遺志に沿うことだったかどうか。今となっては知る術はない。
(完)
* 一年以上に渡って連載を続けて来ましたこの連作シリーズは、これで完結となります。次回予告はありません。お読みくださった皆様、どうもありがとうございました。
――メトロポリスで、またお逢いしましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます