流線型の遺産
その名の通り、
その日、復元官
その街区の外れにある山中の集落に、
三つ揃いのスーツ姿できっちりと決めたトリニータは、
彼から名刺を受け取った役場の文化教育
「確かに、戦争前は鉄道が走っていたらしいですが……遺構が残っているという話は聞いたことがないですね」
と首を傾げつつ、現地へのルートを丁重に説明してくれた。
「ただ、あそこはもう集落じゃありません。すでに人も住まなくなって、地番も抹消されました。特に危険はないはずですが、お気をつけて」
まだ人が住んでいるという山間の村までは
スーツ姿のまま、朽ち果てた吊り橋を渡ったり、道を飲み込んだ崖崩れによって出来た急斜面を
森が途切れ、視界が開けたところで、眼下の小盆地に点在する家屋群が見えてきた。全て無人だと言うものの、石積みの壁もスレート葺きの屋根にも傷んだような気配はなく、意外に状態は悪くない。
住民たちはみな、なぜここを捨てて出て行ったのだろう?
トリニータは不思議に思いながら、廃集落を貫く通りを歩き続け、その突き当りに建つ小さな
集落内の他の建物同様に石造りで、正面扉の左右を守るようなどっしりと太い円柱が印象的なこの聖廟が、どんな神を祀っているのか彼は知らない。
しかしその背後には、廃
聖廟の後ろへと、彼は回り込もうとした。ところがその建物の後部は、そのまま山の斜面にめり込んでいて、そこに入り込む余地などなかった。
トリニータ筆頭書記官は再び建物の正面に回る。ならば、この中に入ってみるしかない。もちろん、鉛箔の貼られた両開きの扉は、びくともしなかった。厳重に施錠されている。
胸ポケットから彼は、遺跡調査七つ道具の一つである、分子揺動ナイフを取り出した。そして、干渉半径がちょうど扉と扉の隙間に当たるようにナイフの先端を当てて、引き金を引きながら一気に引き下ろす。
バターでも切るかのようにあっさりと、三本の炭素閂は切断された。あまり褒められた行為ではないが、使命のためには止むを得ないことだ。
強く押してやると、二枚の扉は奥に向かってゆっくりと開いた。そのあまりの重さに彼は驚く。鉛箔を張ってあるのではない。扉自体が、鉛でできているらしい。
ようやく中に足を踏み入れたトリニータは、その場に立ちすくんだ。
彼の読み通り、聖廟はつまり
そして、そのレールの上には、今までに見たこともない巨大な物体が、ご本尊よろしく鎮座していたのだった。
大変な発見だ、とトリニータは躍り上がった。
恐らくこの集落の住民は、この車両を密かに守りながら、信仰の対象としていたのだろう。だから今まで、世に知られることがなかったのに違いない。
鉛の扉を元通りに戻し、彼は急いで街へと戻った。詳細なレポートは、次の調査に委ねればよい。まずは、
ところが、この世紀の大発見に対する、上層部の指示は意外なものだった。
「目撃したものについて、一切の口外はまかりならぬ」
続いて筆頭書記官は、
しかし、間もなく彼は謎の病を発症し、二度と起き上がることのできないまま、ついにはこの世を去ることになってしまったのだった。
あの流線型の遺産は、特殊工作部隊の手により、トンネルごと重金属セメントを流し込まれて封じられることになった。
かつてこの車両の動力源だった
まともにその前に立ってしまったトリニータが、命を落としてしまったのも当然のことだった。
まだ世界の各地に、同じような危険な遺物が眠っていると考えられている。過去の文明の遺産が、全て素晴らしいものだとは限らないのだ。
(了)
[次回予告]
思い切って誘ったメリー・アン。たとえ中古の三輪自走車でも、夏の日のドライブは輝かしい想い出。しかしビーチからの帰り道、暗雲が立ち込めた。
次回第25話、「疾走GT」
――メトロポリスで、またお逢いしましょう。
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