もはやサイバーパンクが未来を見通す幻視でなくなってから、どれほどの時間が経ったのか。
犬面(ドッグフェイス)と自称する本名不明のサイボーグの探偵が主人公の短編集。ある種の懐古と言うべきか、技術への不安と期待がたしかにかつて存在した時代を思い起こさせる作風。
ルビを多用した乾いた文体はいかにもサイバーパンク。
古式ゆかしい回転式拳銃を相棒に、一見してハードボイルド・ミステリに登場しそうな気配すら漂わせる主人公・犬面。彼が暮らす人工の灯りがあまねく照らす都市。
しかしそこに息衝く人々は、サイバネティクス技術により機械化され意識的にも肉体的にも拡張された人体を持ちながらも、どうしようもないほどに人間性に溢れている。
電脳空間での攻防や、振動剣や単分子ワイヤーが入り乱れるサイボーグの激しい戦いを物語の主題とするのではなく、発達した科学の向こう側にあるはずの普遍的な人間模様が描写されている。
これこそまさしくサイバーパンク、だと思う。
以下余談。
私が初めて映像として触れたサイバーパンクものは、幼少期に見たキアヌ・リーヴスの「JM」なんですが(ビートたけしがヤクザという非合法犯罪組織の親玉として出演している。難病により亡くした娘のホログラムに翻弄され、冷酷ながらも人間性を象徴し死ぬさまは、実写版の攻殻より万倍もカッコいい役です)、この作品に出てくるハッカーのサイボーグ・イルカがやたらと記憶に残ってます。
「都市を嗅ぐ犬」にもハッカー動物がでてきますが、サイバーパンク動物って素敵ですよね。