第44話 戦いの後

「おーい、ギル、ドロシー!!」


 レンがミサキに肩を組んでもらいながらこちらに歩いてくる。


「良かった2人とも……私心配で……!!」


 ミサキの目が少し潤んでいる。

 本当に優しい子だな。


 ――いや、今はそんなことより。


「おまえ……なにミサキにセクハラしてんだ!」


 肩に手を回すとは何事か!! 吊り橋効果か? そうなのか?!


「は、確かに‥‥‥! そうよこのバカ! 少しは時と場合を考えなさいよ!」


 するとミサキが慌てて訂正する。


「違う違う! レン君頑張りすぎちゃって足挫いたのよ。かなり活躍してたんだから!」


「信用ならねえなあ‥‥‥」


「ほんとだって~! 疑い深いなあ、ギルは」


「お前の日頃の行いを見てればな‥‥‥」


 が、確かに足を引きずってはいるようだ。


 俺たちが抜けた穴を一生懸命埋めてくれたわけだ。


「まあその、よくやったとは思うぜ」


「ははは、いいってことよ! ったく、お前にも見せたかったぜ~おれの活躍をよ!」


 レンの表情は明るい。

 被害はほとんどなかったのかもしれない。


「他のみんなは?」


「ベルは先生たちについて状況報告だな。三校戦にいった連中にも連絡が必要だし。ロキは……そういや見てないな」


「まぁロキに限って死んでるってことはねえだろ」


 ミサキはうんうんと頷く。


「私が見たときはヘラヘラと笑いながら魔獣を殺してたよ……怖かった~」


「うげっ……どっちが魔獣なんだか」


「悪かったな魔獣で」


 と、ドロシーの後ろに立っていたロキが声をかける。


「ろ、ロキ! いつからいたんだよ!」


「今来たところだが‥‥‥」


 不意に現れたロキに驚いてしまう――というのもあるが、もっと驚いたのは、あのロキが俺たちの会話に入ってきたことだ。


 いつもどこ吹く風で俺たちに全く興味を持たないロキがこんなに積極的だなんて。


 戦闘でアドレナリンが出まくって興奮状態なのか‥‥‥?

 確かに火照って顔が少し赤みがかっている。余程暴れまわったのか。


 まぁともあれ、全員無事でなによりだ。


「それで、キース先生とカイン先生はどうした? 無事なのか?」


「それが……」


 俺たちはあったことを全て話した。

 もちろん学校長に口外禁止された本のことを除いて。


「そっか……たしかに入試の時から様子がおかしかったもんなあの先生」


「何それ、私聞いてないんだけど」


「俺たち……おれとギルの試験監督がキース先生だったのよ。なんだかその時から妙な感じがあってな。その時にはもう操られてたのか……」


「かもな‥‥‥。死霊魔術のかかる前のキース先生と会いたかったよ」


 死んでしまってはもう会えない‥‥‥。

 前から知っていた上級生たちのショックは相当でかいかもしれないな。


「ふん、自分の身も守れない奴が教師なんか務まるかよ。そんな奴に教わることもない」


「おいロキてめえ!」


 レンが今にも殴りかかりそうになるが、足首の痛みに顔を歪める。


「そうよ、レンのいうとおり。言っていいことと悪いことがあるわよ」


「知るかよ。俺は俺のためになることにしか興味ない。その点で言えば今回の騒動は俺のレベルアップに役立った……そういう意味じゃあキースの死も無駄じゃなかったな」


 こいつ……!!


「流石にそれ以上は俺もブチ切れるぞ、ロキ」


「……ふん。お前のブチギレたところを見てみたいものだがな」


 そう言ってロキは寮の方へと帰っていく。


「ったく、嫌味な野郎だぜ」


 しかし、ミサキだけは未だにロキを見捨ててはいないようだ。


「ロキ君なりの優しさなのよ……無駄死にじゃないって言いたかったんじゃないかな」


「んな器用な玉か?! どう考えてもただ嫌味をいっただけだぜあれは。――はぁ、まあいいわ。今日は疲れたし帰ろうぜ。どうせ明日には事情聴取とかあんだろ? 今日はゆっくり休もうぜ。俺の武勇伝とかもギル達に聞かせてえしよ」


「いや、流石に寝かせてくれ‥‥‥」


「あはは。まあそうだわな。んじゃ俺たちは先行くぜ~」


 レンはミサキに連行されて寮へと戻っていく。


 俺とドロシーが二人取り残されてしまった。


「‥‥‥私達だけ、変なこと知っちゃったわね」


「あぁ‥‥‥まあしょうがねえよ。それにしても――」


 俺はドロシーを見る。


 ドロシーは少し恥ずかしそうに「何よ」とぶっきら棒に返す。


「あの時お前‥‥‥俺に声を掛けたよな?」


「え?」


「ほら、ダガーが飛んでくるとき‥‥‥」


 そう、俺が禁書で混乱しているときに‥‥‥。


「あっ、あの時ね。でもあれくらいは――」


「いやいや、すげえって。あんなに魔力探知が苦手だったのに‥‥‥あの土壇場であれが出来るのはしっかり努力した証拠だよ」


「あ、あの時は無我夢中で――」


「いつになく謙遜するなあ」


 俺は軽く笑う。


「笑うな! ま、まあ私は努力して天才を越える女ですからね!! 自分で特訓したことを後悔するといいわ」


「まったくだ。厄介な奴を育てちまったもんだ。‥‥‥でも実際、ドロシーが気付いてくれなかったら、もしかしたら俺は今頃あの世だったぜ」


「そ、そんな大げさなことじゃないでしょ!」


「そんなことねえよ。やっぱすげえわ、ドロシーは」


「おだててもなにもでないわよ‥‥‥」


「――ま、これからも期待してるぜ、未来の大魔術師!」


「ちょ、それは止めてよ! からかってるつもり!?」


 ドロシーは怒って俺の肩を叩く。

 それが何だか日常に返ってきた合図の様な気がして、俺は笑った。


 闘いだけじゃない。こういう成長を隣で見ていくのも、青春なのかもしれない。


 こうして長い夜が終わった。


 キース先生を操っていた人物、転移魔術の使い手、禁書を欲しがった理由、謎の組織『アビス』‥‥‥謎は尽きることがないが、専門の部隊ゾディアックの人との話で何かわかるだろう。


 そんなことをあれこれ考えるつもりでベッドに横になったが、千年ぶりの全力が祟ったのか、あまりの疲労に俺はあっという間に夢の世界へと落ちていった。


 今日は本当に疲れた。

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