第27話 寮生活開始

 それからホムラが帰ってきて、ウルラの寮を案内してもらった。


 俺たちが自己紹介をしたのが応接間で、冬用の暖炉を囲むように三つのソファと長いテーブルが置かれている。

 

 少しカーブのついた階段を上がった二階からは上級生の部屋が続いている。

 階段は二つあり、左が男子棟、右が女子棟となっている。


 俺たち1年生の部屋は階段の横の細い通路を少し行ったところにあった。

 

 全部で101から120までの部屋があり、101から110は男子部屋として左側通路の奥に、111から120は女子部屋として右側通路の奥にある。


「男子は101がギル、103がレン、105がロキ。女子は111がドロシー、113がベルベット、115がミサキだ。隣同士は何か音が聞こえて嫌だろう?」


 部屋は一人一部屋用意されているようで、中には簡易のベッドと机、テーブル、本段など一通り生活できるものは用意されていた。


 正直二人部屋なんかも覚悟していたが、一人一部屋とは予想外で嬉しい限りだ。


「ギルは前住んでた家より広くて快適なんじゃない?」


「まぁあいつの家に比べればそうですね‥‥‥何か狭い部屋に詰め込まれてたし‥‥‥」


「え!? あんたホムラさんとも知り合いだったわけ!? 一体どうなってんのよ、サイラスさんとも知り合いだし‥‥‥」


 ドロシーは眉間にしわを寄せる。


「いやまあえっとそうだな‥‥‥たまたまだよ‥‥‥」


「そそ! 私達の仲だからねえ~」


 ホムラは俺の腕を強引に引き寄せて腕を組む。

 胸があたる‥‥‥!!


「ギルあんた‥‥‥」


「ギル~! 羨ましすぎるぜお前! ホムラさんと知り合いの上に関係ってなんだよ気になるな!」


 ドロシーの怒りの視線と、レンの羨望の眼差しが痛いくらい突き刺さる。


 はあ、めんどくさい‥‥‥。


「――ホムラさん、ちょっとからかうのはやめて早く案内してくださいよ」


「もうー、照れちゃって。やれやれ、続けますか」


 ホムラさんは俺から離れると引き続き先へ進む。


「食事は応接間の奥に食堂がある。食費は学費に含まれているからたらふく食べな~」


「よっしゃ~やったね、俺たち育ち盛りだからなあ。なあ、ギル!」


 レンは笑顔で肩を組んでくる。

 本当フレンドリーな奴だ。


「おい、レンはもう十分でかいから育たなくていいだろ」


「いやいや、魔術師はインパクトが大事よ? 2mは欲しいと思ってたんだよねえ」


「いや、デカすぎだろ‥‥‥2mのお下げパーマとか怖すぎ」


 こいつは本当どこを目指してるんだろうか‥‥‥。


「あとトイレとシャワー室はあっちだ。シャワー室は男女別だけど、覗こうとするなよ~男子」


 ホムラはニヤニヤとしながら俺たちを見る。


「特にギル! あんたは前会ったときも目がいやらしかったから‥‥‥」


 ホムラが胸の前に手を当てくねくねと身体をくねらす。


「本当あんたって‥‥‥」


「誤解だ!! やめてくださいよ!!」


「あはは。まあざっと寮内はこんなものだね。他に知りたかったら都度聞いて頂戴。私は412号室だから。じゃあ後は――」


 ホムラは応接間のソファーにどかっと腰を落とす。


 俺たちもそれを囲むように座る。


「この寮の規則についてだね。正直ルールらしいルールなんてほとんどないよ、本当に自由なのよね。門限なんかもないし、まあそれだけ過去の卒業生たちが優秀だったってことね。――あっ、あと強いて言うならイベントごとは楽しむこと、かな」


「イベント事? 何かあるんですか?」


「そうねえ、クラス対抗の闘技祭なんかもあるし、寮内でもウルラ杯なんかを生徒たちで主催したりもしてるわ。クラスを越えたクラブ活動みたいなのもあるし。ほら、あそこの掲示板を見てみて」


 ホムラが指を指した掲示板には、大小さまざまな紙が貼られている。

 よくみると、そのどれもがイベントや集会、クラブの勧誘チラシだ。


「ああやって人を集めたいときはあの掲示板に好きに貼るのよ。審査とかないから好きに使ってくれていいわよ」


「へ~結構面白そうじゃない。魔術の討論会とかないわけ」


「ドロシーはまじで勉強のことしか考えてないな、もっと遊ぶとかあるだろ」


「何言ってるのよ! 努力こそ最高の遊びでしょうが! 自分の糧になることだけを突き詰めていくのが私のポリシーよ」


「うえー堅苦しい奴だ‥‥‥」


 まったく、ドロシーのまじめさには驚かされる。

 ここまで努力好きだとはな。


「よし、とりあえずこんなものかしら。明日はガイダンスで校内の案内とかされるだろうから、期待してて。それは私じゃないけどね。じゃ、今日はもう部屋に入って自由にしてていいわよ~」


「「「はーい」」」


◇ ◇ ◇


「よし、こんなもんか‥‥‥」


 とりあえずツリーハウスから持ってきてたものはあらかた置き終わったな。


 この時代に有っても不自然じゃない本や衣類、羽ペンやインク、てきとうにサイラスの家からパクってきた魔道具数点。


 こじんまりとした部屋だが、ベッドもそこまで悪くない。むしろ快適だ。


 かなり高価なはずの魔道時計も各部屋に一個ずつ取り付けられており、いつでも時間を確認することができる。


 今日からここで生活するのか。

 クロの作ってくれたツリーハウスも良かったが、ここも悪くない。


 とその時、コンコンとドアがノックされる。


 誰だ‥‥‥?


 はっ、まさかツンデレドロシーが一緒に寝ようとか‥‥‥?

 いや、ホムラさんが際どいネグリジェ姿で訪問という可能性もある‥‥‥。


 どちらにせよ、これはラッキーイベント‥‥‥!!


 俺は内心うっきうきしながら恐る恐るドアを開ける。


 しかし、俺の期待は見事に裏切られる。


「よっ」


「‥‥‥‥‥‥レン‥‥‥」


「おいおい、露骨に落ち込んでくれちゃって~、女子だと思った?」


「思ってねえよ! ‥‥‥で、何か用か?」


 思ってたわバカたれが。


「いやあ、暇だったから来ただけでな。――おー結構片付いてるな。ものが大分少ないけど‥‥‥」


 そう言いながらレンはあたりをキョロキョロ見渡す。


「は? だいたいこんなもんだろ? お前の部屋はどうなってるんだよ」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、俺はレンに連れられて103号室へと入っていく。


「お‥‥‥おまえ‥‥‥まじか」


「どや? 結構ええやろ?」


「いいっつうか‥‥‥」


 レンの部屋は、まさに思春期の少年の部屋! という感じだった。


 誰かもわからん水着を着た女性のポスターだったり、杖を持った若い男のポスターが何枚も貼ってある。


 机の上は早くも本でぐちゃぐちゃになっていて、クローゼットも服がはみでまくっている。


「おいおい、実家じゃお手伝いさんにやって貰ってたから掃除出来ねえとかじゃねえよな?」


「うちはそんな金持ちじゃねえよ。いいだろ? なんか生活感あって」


 そう言ってレンはベッドの大の字で横になる。


 レンの大きさだと本当足までがギリギリ入ると言った感じだ。


「ま、まあいいんじゃねえか? 俺もなんかやることあったらこの部屋に来させてもらうわ」


 なんかこっちの部屋は汚しても罪悪感なさそうだからな。俺の部屋は綺麗に保たせてもらうぞ。


「お! いいじゃんいいじゃん、好きにきてくれよ! あっ、ロキのところも行くけどくるか?」


「んーいや、俺はいいわ。あんま距離感も分かってないんだからしつこく詰め寄るなよ。関係こじれるとかめんどくせえから」


 ま、こいつなら仲良くなってしまいそうだが‥‥‥。


「わかってるよ~。んじゃあな」


「おう、おやすみ」


 俺は自分の部屋へと戻る。


 明日は校舎内の案内だとホムラさんが言ってたな。楽しみだ。

 とりあえず明日の朝飯は食いたいから7時には起きるか。


 俺は布団をかぶり、ランプの灯を消す。


 寮生活最初の一日目の夜が訪れた。

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