第17話 似た顔
間違いない‥‥‥この面影‥‥‥。
少し幼くなっているけれど、俺が見間違う訳がない。
エレナ――!
鎖魔術を得意とする王に選ばれた俺たちの仲間。
勝気で世話焼きで、やたらと俺にちょっかいを掛けてきて‥‥‥そしてあの最後の闘いで、俺の命を助けた魔術師その人だ。
にしても驚きだ。
まさか、エレナも蘇生魔術で身体が退行してこの姿に‥‥‥?
「エレナ、まさか君も眠ってたのか?」
「えっ‥‥‥えっと‥‥‥何、眠る‥‥‥?? 眠るって‥‥‥」
エレナは戸惑った表情で俺を見つめる。
その頬は少し赤く染まり、恥ずかしがっているのがわかる。
あれ、何かおかしいな‥‥‥エレナはもっと傍若無人な荒々しい性格をしていたような‥‥‥。
どちらかといえばドロシーみたいな感じだった気がするんだが‥‥‥。
この数年間俺と同じように年を重ねて少し変わったんだろうか。
「いやほら、クロだよ、会ったことあるだろ?」
「ん~~‥‥‥えっと‥‥‥クロさん? は良く分からないかな‥‥‥」
「じゃあそれなら誰に眠らされて――」
「――いい加減にしなさい!!」
ドロシーは強引に俺の手をエレナから引き剥がす。
まるで子猫を守る親猫のようにドロシーは険しい表情をする。
「本当油断も隙も無い! 可愛いからっていきなり手を握るとかとんでもない奴ね‥‥‥。というか鼻息荒すぎ! 離れろ!」
ドロシーはシッシッと手で俺を払うようにして、エレナを自分に引き寄せる。
ドロシーの軽蔑の眼差しがより一層強くなる。
うわあ、好感度がどんどん降下していくのがわかる。
まあ最初からマイナススタートなんだけど。
「いや、そういうつもりじゃなくてよ。いろいろ聞きたいことが――」
「それに! あなたさっきからエレナエレナって言ってるけど、違うから!」
「はあ? いや、この顔はどうみてもエレナだろ‥‥‥」
そう、どう見てもエレナだ。エレナの生き写しのような姿だ。
エレナがこれくらいの年のころから一緒に戦ってきた俺には分かる。
エレナは俺がまじまじと顔を見つめると、サッと視線を逸らす。
「顔って、あんたが見たことあっても精々さっきの石像くらいでしょ‥‥‥。いい? この子はエレナじゃなくてベルベット! エレナ様じゃないの。‥‥‥と言っても、まあ完全に無関係じゃないんだけど‥‥‥」
「は? どういうことだよ」
「あなたが六英雄のエレナ様にいったいどんな思い入れがあるのか知らないけど、これからは迂闊に女の子の手なんか握らないことね。――いい、ベルはエレナ・ロアの直系の子孫‥‥‥ベルベット・ロアよ。正真正銘、英雄の家系なの」
英雄の‥‥‥家系!?
子孫!?
「じょ、冗談だろ!? だってエレナと瓜二つじゃねえか!」
「なんであんたがエレナ様の姿に詳しいのか知らないけど‥‥‥確かにベルの家の人たちは生き写しの様だって言ってたわね。よくあることじゃない、遠い祖先と似た容姿に生まれてくることくらい」
「むっ‥‥‥‥‥‥」
そうか‥‥‥別にエレナ本人というわけじゃねえのか‥‥‥。
あまりにそっくりすぎて、つい取り乱してしまった。
改めて見ると、確かに少し違うところはある。
エレナの瞳はもう少し青みがかっていたし、胸はもう少し小さかった。
完全に瓜二つというわけじゃないらしい。
俺としたことが、少し取り乱し過ぎて正常な思考が出来てなかったみたいだ。よく考えれば、俺の他に眠ってたやつがいるならクロが黙ってるわけがないわな。
俺は同じ境遇の奴がいるんじゃないかと期待した分、残念な結果に思わずため息がでる。
「何溜息ついてるのよ! あの英雄の家系なのよ!? 少しは敬ったらどうなの」
「い、いいよドロシー。私そんなつもりないから‥‥‥」
ベルベットは、苦い顔をしながらドロシーを静止しようとする。
「だめよベル。このバカ男にはとことんこびへつらってもらわないと気が済まないの。あなたもこの男をいびる権利を上げるわ。好きにしなさい」
「なんでお前にそんな権利を譲渡する権限があるんだよ‥‥‥。とにかく、えーっとベルベットさん? 急に詰め寄ったりして悪かったよ」
ベルベットは少し引きつりつつもほほ笑むと、手を左右にふる。
「ううん‥‥‥たまにあることだから、大丈夫だよ。ドロシーがこんなに生き生きしてるのを見るのも久しぶりだし、きっといいお友達なのかな?」
いいお友達、に反応したドロシーが慌てて訂正する。
「違うわよ! 友達な訳ないでしょ! こいつはとにかく頭のネジがぶっ飛んでるの、近づくと何かに巻き込まれそうだから今後は近づかないことね」
「相変わらず酷い言いようだな‥‥‥訂正する気も起きないぜ‥‥‥」
「事実だから訂正しなくていいの! ――――じゃあ私達はこれでさようならするから、後は一人で頑張ることね」
「あっおいちょっと!」
「えっいいの、彼は――」
「いいのよ! 行きましょう! ではごきげんよう! どうせ落ちるだろうからこれが最後の挨拶ね、永久にさようなら」
そう言って、ドロシーはベルベットを引きつれて校内へとさっさと消えて行った。
嵐の様な出会いだった‥‥‥。
一人取り残された俺は、茫然と二人の後ろ姿を眺める。
それにしても、千年後の世界‥‥‥おもしれえな。
まさかエレナの子孫がちゃんと繁栄して残ってるなんて。なんだか、それだけで幸せな気持ちだ。
つーかあいつ子供残してたのかよ! 気付かなかった‥‥‥。
いや、あいつの子供とかじゃなくて他の兄弟のって可能性もあるか。
今度ベルベットに相談してお墓参りさせてもらおう。
許可下りるかわからねえけど、あいつの墓だけはちゃんと拝みにいかねえとな。
◇ ◇ ◇
俺は一人で正面入り口から入り、案内板に従い自分の試験会場へと向かう。
3000人以上が受験すると言うこともあって、会場は複数に分かれているようだった。
俺の受験番号は302番。
試験の会場は大講義室だ。恐らく一番大きい会場だろう。
道順に従い中へと進んでいく。
これだけ多くの受験生が居るのにも関わらず温度が低い。きっと魔術の一種だろう。
「おおぉ‥‥‥」
大講義室は想像よりかなり大きく、中央の壇を囲むように木製の長い机が半円状に広がっており、それが段々になっている。どうやら椅子も席ごとに一個づつ‥‥‥という訳ではなく、一つにつながっているようだ。
俺はその大きさに呆気にとられる。
このデカい会場で試験を受けるのか‥‥‥。
席にはそれぞれ番号が振られていて、自分の受験番号と対応している。
302番は右後方の最上段付近だった。
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