第31話 夏目ヨル



「よし後輩、ユーフォ―キャッチャーやるぞ!」

「そうっすね」


 俺と夏目さんは二人、ユーフォ―キャッチャーへとやって来た。


「頑張れ~」


 明日香たちは少し離れた場所でソフトクリームを食べていた。


「よし後輩、まずはお前の力を見せてみよ!」

「仕方ないですねえ」


 俺はユーフォ―キャッチャーに百円を入れ、起動させた。


「ちゃんちゃららんちゃんちゃららんちゃんちゃららん」

「うっせぇ!」


 機械から鳴る電子音の真似をする夏目さんの妨害にあう。


「ちゃらららららちゃららららら」

「うっせええぇぇぇ!」


 ボト、と途中で目的の品は落ちた。


「なんだ後輩、下手くそだナ」

「夏目さんがうるさいからですよ」

「ちゃんちゃららんちゃんちゃららんちゃんちゃららん」

「それぇ!」


 俺は夏目さんにお口チャックのジェスチャーを送る。

 今度は夏目さんが口をつぐんだ。


 そして二回目。

 ちゃらちゃらという電子音を聞きながら、ユーフォ―を操作する。

 そして何の問題もなく、商品を落とすことに成功した。


「ふう」

「後輩すごいナ!」


 夏目さんは落ちてきたお菓子の詰め合わせを抱えた。


「じゃあ次私」


 夏目さんが百円を入れ、ユーフォ―キャッチャーを作動させる。

 電子音はすぐさま鳴りやみ、


「……」


 ブゥゥゥン、と空虚な音を立てて空を切った。


「何してるんスか、夏目さん」

「違うくて! 違うくて!」


 再び夏目さんはお金を入れ、プレイする。

 ユーフォ―をほとんど動かすことなく商品を手に入れようと躍起になり、落とし口から冒険できていない。


「夏目さん、そんなに小さく動かしても取れないものは取れないですよ。お菓子の端しかつかめてないじゃないですか」

「だって! だって!」


 夏目さんはぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「それにお菓子の詰め合わせなんて持ってたら操作しづらいでしょ。返しなさい」

「あ!」


 俺は夏目さんが大事そうに抱えていたお菓子の詰め合わせを没収した。


「もうやらないもん!」

「ちょっと~」

「お菓子の詰め合わせ持てないならやらない!」

「いや、これ俺が取ったやつなんですけど」

「やらないもん!」

「しょうがないなあ」


 俺は夏目さんにお菓子の詰め合わせを持たせた。

 夏目さんは目を輝かせ、再びユーフォ―キャッチャーを始めた。

 が。


「あ」


 何度やってもお菓子は取れない。


「下手くそですねぇ、先輩」

「違う! 違う! そもそも私の身長じゃ中よく見えないから! 後輩の方がずるい!」

「まあそれは否めないところはある」


 確かに身長というのはかなり大きなファクターではある。

 ユーフォ―との距離が空くにつれて、距離が測りづらくなる。


「だっこ!」

「えぇ~……」

「だっこ!」

「本当どうしようもないですね、先輩は」


 俺は夏目さんの脇腹をがし、と掴んだ。


「あはははははは、あは、あははははは!」


 そして夏目さんが暴れだす。


「ちょっと! 暴れるな!」

「ちょ、後輩、くすぐったい! くすぐったいから!」


 ひぃ、と泣き笑いしながら夏目さんは降りた。


「じゃあもうどうしようもないでしょ」

「まだ肩車という選択肢があるんだナ」

「いやいやいや」


 俺は夏目さんの足元を見る。ワンピース。これでどうやって肩車をしろというのか。


「後輩、肩車だ!」

「えぇ~……」


 出来るかは分からないが、とりあえずかがむ。


「よいしょ、よいしょ……」


 夏目さんは俺の肩に足を乗せようとするが、やはりうまくいかない。

 というかワンピースでどうやれば肩車が出来るのか知りたい。


「む~~~……」


 夏目さんは考え込む。


「仕方ない後輩! 合体だ!」

「そんなロボットじゃあるまいし……」


 夏目さんは俺の頭を挟み込むように、俺の肩に座る。


「合体! 夏目ヨル!」

「婿養子かよ」

「後輩、今は普通に結婚しても私の苗字に変えることも出来るのだよ」

「なんで結婚前提なんだよ」


 夏目さんは俺の頭を太ももで挟み、スカートの後ろ側を俺の背中へ回した。


「これで完璧だ!」

「おいおいおいおい」


 合体、夏目ヨル。俺は夏目さんの生の太ももに直に挟まれ、夏目さんのワンピースで俺の顔は隠された。


「にゃははははは! これだ! これで完璧なのだ!」

「夏目さん、これ外から見たら多分滅茶苦茶ヤバいことなってると思いますよ」


 多分、夏目さんのワンピースで俺の肘あたりまでが隠れているはずだ。


「また私は新しいプレイを生み出してしまった……」

「さっさとやりましょう、見つからないうちに」

「おっけー!」


 言うも、動くのは俺なので、どうしようもない。


「よし後輩、お金入れて」

「お金どこだよ! 夏目さんの脚しか見えねぇよ!」

「はい」

「あ、どうも」


 夏目さんが俺の手にお金を握らせてくる。

コインの投入口を探し、コインを入れた。


「はい、ヨル右~右~右~右~ストップ!」


 夏目さんの指示に従い、スイッチを押す。


「はい、前~前~ストップ!」


 ユーフォ―が下がる。


「おおおおおおぉ~?」


 ユーフォ―はお菓子詰め合わせに下りると、


「あ」


 やはりお菓子を掴めずに終わった。


「ヨルのバカバカバカバカバカ!」

「痛い! 痛い! 叩かないで!」


 夏目さんが俺の頭をぽかぽかと叩く。

 俺は夏目さんの足を持っているため、抵抗が出来ない。


「わ~、何あれ!」

「すごい! 私もやりたい!」


 子供たちがこちらに向かってやって来る声がする。


「ちょっと夏目さん! 変なの来てますよね!」

「あ、案ずるな後輩……。関係ないのだ……」

「おい! 芽久! 嘘つくな! 子供が来てるだろ!」

「あ、あははははは! あははははははは!」


 夏目さんの脇腹を持ち、下ろす。


「私もやってー!」

「僕も僕もー!」

「ははは……」


 やはり、子供たちがやって来ていた。


「さっきの何~?」

「すごかった!」

「じゃあお前ら列に並べ!」

「「は~い!」」


 子供たちを肩車した。



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