第30話 連結スカート



 俺は化け物、浅井大地と明日香たちの下へと向かった。


「あれ、大地じゃん。どしたのこんなところで」


 明日香が何の悪びれもせず大地に言う。


「お前が今日誘ったんだろ」

「あれ、そだっけ。あ~、だからサク誘おうって思ったんだった」

「鶏頭だな」


 明日香はてへ、と舌を出す。これで可愛いと思ってるんだから救いようがないな可愛い。


「というか明日香、お前変なのを押し付けんなよ、俺に」

「えぇ~だって面倒くさかったんだもん」

「大地がいなかったら今頃どうなってたことか」

「別に俺がいなくてもお前一人でなんとか出来ただろ」


 化け物の肩に乗っていた俺はひっぺはがされる。

 何を隠そう、俺が大地と出会ったのは子供のころ。その頃は大地もここまで体はでかくはなかったものの、驚異の喧嘩の強さを誇っていた。

 その大地と喧嘩をし、いい勝負をしたのが俺。

 いまでも基礎鍛錬を欠かしたことはないし、精神の健康は肉体の健康から、という信念をもとに、相当体を鍛え上げている。

 俺が直接あの男たちと向き合っても良かったが、なにせ俺も面倒だった。

 というか身体能力の高い明日香一人でももちろんなんとかなったはずだ。


「まあそこは置いといて」

「置いとくなよ」


 大地、俺、沙奈、明日香がゲームセンターに揃った。


「沙奈アイス食べたいす」

「そうかそうか。じゃあアイス買ってくるか」


 俺はソフトクリームを買いに行った。沙奈もついてくる。


「沙奈、楽しめてるか?」

「お外あんまり好きじゃないけどお兄ちゃんと一緒だから良い」

「そうかそうか」


 沙奈は俺の腕にくっついてくる。全く、面倒見の良い兄だ。


俺と沙奈は大地と明日香の分のソフトクリームを買い、返ってきた。


「はい」


 俺は明日香にソフトクリームを渡す。沙奈と明日香は早速食べ始めた。


「悪いな大地、このソフトクリーム、三人乗りなんだ」

「三人乗りのソフトクリームは何だ」


 ごく自然に大地をはぶろうとしたが、俺の片手のミックスソフトに手を伸ばされる。


「駄目! ここには何にもいないわ!」


 俺は二つのソフトクリームを背中に隠した。

 そして大地の好物であるミックスソフトを後ろから少しだけのぞかせる。


「出ちゃ駄目!」

「何シカだお前は。おいでミックス……」


 らららと俺がハミングをして雰囲気を出すが、大地は俺の背中から顔をのぞかせるミックスソフトを取り上げた。


「あぁ!」


 俺は膝から崩れ落ちた。


「絶望したぁ!」

「絶望するんじゃない」


 俺たちはベンチに座り、お行儀よくソフトクリームを食べた。


「あ、佐久間君!」


 向かいから小さいバッグを肩にかけた一宮が、手を振ってやって来る。

 小走りで来ているからか、少し危なっかしい。


「ヨル~」


 そして一宮の後ろから、夏目さんが顔を出した。なんだ、夏目さんも来ていたのか。


「久しぶり、佐久間君」

「おう、一宮」


 一宮は前髪をちょろちょろと直しながら、俺に向き直った。


「ヨル~、お久~」


 夏目さんも俺に手を振る。

 夏目さんはいつもの制服ではなく、ひらひらの可愛らしいワンピースを着ていた。動くたびにフリルが動き、気が散る、というか、目が吸い寄せられる。

 黄色でまとめられた服装はヒマワリのようだった。


「夏目さん、今日はワンピースなんスね」

「そだよ~」


 夏目さんはその場でくるっと一回転した。


「可愛いワンピースだから下着も可愛いんだナ」


 夏目さんはフリルを掴み、するすると上へ上げていく。


「こら! 止めなさいこんなところで! はしたない!」


 俺は夏目さんの手をはたいた。


「ちゃんとお金を取って見せなさい! ところでお嬢ちゃん、二万でどう?」

「に、二万円なら……」


 夏目さんは再びフリルに手をかけた。


「ダメですよ夏目先輩!」

「はっ! 危うく正気が!」


 夏目さんは俺の手をそっと握り、離させた。


「あとでな、後輩」

「あとであとで」


 大げさに耳打ちする夏目さんに、白い眼が向けられる。


「なだ皆、その目はぁ! あ、ヨルこれ今日の」

「ぁむっ」


 俺の口に夏目さんの使用済みの飴が突っ込まれる。


「俺ソフトクリーム食べてたんスけど」

「じゃあそれ私の」


 夏目さんは俺のソフトクリームをぶん捕り、俺の膝の上にちょこんと座った。


「ちょっと夏目さ……まあいいか」


 俺はあきらめ、膝を貸した。夏目さんは俺の膝の上でぺろぺろとアイスを食べている。


「佐久間君、今日の服どうかな?」


 一宮がその場で一回転する。ボーイッシュな服装で露出こそ控えめではあるものの、短パンと、合わせるところは合わせているように見える。


「いいんじゃないか」

「やった」


 一宮は軽くガッツポーズをした。


「夏目先輩~、なんでサクの膝の上乗ってるんですか~?」


 明日香がぷんぷんと頬を膨らませながら夏目さんに近寄る。


「後輩、このまな板子ちゃんは?」

「先輩も人のこと言えないっスよ」

「何? あすあすも座りたい?」

「いや~、先輩なのに後輩の膝の上なんかにちょこんと座って恥ずかしくないのかな~って思っただけですよ~」

「じゃあ関係ないナ」


 夏目さんはどこ吹く風とソフトクリームを食べ続ける。


「サクからもなんとか言ってよ」

「夏目さん、前より太りました?」

「まあちょっと」

「前?」


 明日香が眉を寄せる。


「サク、もしかして夏目さんと……」

「ああ、前夏目さんの家行って社交界みたいなの行ってきた」

「はあぁ!?」


 明日香が夏目さんを引っぺがす。


「聞いてないんですけど!」

「まあ言ってないから……」


 どうどうどう、と明日香をなだめすかす。


「まあまあ、あすあす。私に免じて許したまえ。サクも私のことをしっかり守ってくれて、パパとママからも好感だったんだし」

「ご両親に挨拶してるじゃん!」


 明日香が俺の胸ぐらをつかむ。持ち上げられて、足がつかない。


「分かった。分かったから。今度は明日香のご両親にも挨拶するから」

「いや、勝手に遊びに行ったこと怒ってるんですけど?」


 と言いながらも、ちゃんとおろしてくれた。


「ふう、何とか言ってくれ大地」

「この人たちは誰だ?」

「そこからかよ!」


 そういえば大地はこの誰とも知り合いじゃなかったのか。

 一宮と夏目さんは大地に軽く挨拶をした。


「後輩、ユーフォ―キャッチャーやりたいナ」

「いいですね、やりましょう」

 

 夏目さんと俺はユーフォ―キャッチャーへと向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る