第27話 今さらパンツと言われても 9
一時間が経ち、佐久間は一宮たちと合流した。
「一宮、何か収穫は?」
「ううん、何もなかったよ」
「なるほどな……」
佐久間は考え込んだ。
「皆に少し、見てもらいたいメモがある」
そう言うと佐久間はメモランダムを取り出し、全員の前で広げた。
新木、惣斉にノート配りを手伝ってもらう
↓
新木、惣斉、教室に戻る
↓
一宮、惣斉を連れ出す
↓
惣斉、バレー部の面子と会い、会長の指示により鎮圧されたことを確認
↓
俺が到着する
↓
惣斉、突如狼狽。パンツが盗まれたと言い張る
↓
会長、惣斉に緊急放送を頼まれる
↓
会長、断る
↓
惣斉、諦める
一宮を含め、その場の全員がそのメモ用紙に目を配らせる。
「俺の認識ではこういう時系列だが、間違っていないか?」
「うん、僕もそう」
「私も」
全員の見解は、一致した。
「ここでどうしても解せないのが、追試だ。絶対に何か追試が関係しているはずだ。追試はどのタイミングで起こったんだ?」
「多分だけど、僕が惣斉さんを体育館に連れてきた後くらいに追試が始まったと思う」
「……」
佐久間はメモを見た。
そして間に追試の文字を書いた。
「…………」
佐久間は天を仰いだ。
「そういうことか……」
「え、なに? どういうことなの?」
「ヨル、早く教えろナ」
夏目たちが佐久間に詰め寄る。
「惣斉は本当は、この追試にいないといけなかった」
「え?」
佐久間は一本、指を立てた。
「惣斉さんってそんなに頭悪かった?」
「聞いたことないナ」
「追試受けないといけなかったの?」
「違う違う」
上峰や一宮の質問を一蹴する。
「惣斉がいなければいけなかったのは、追試の補佐役だ」
「あ」
「なるほど」
桜庭は頷いた。
「そういうことなんですね。惣斉さんは先生からの信頼も厚く、追試の補佐をやることを頼まれていた。そんな惣斉さんが自分の責務を放り出していなくなっていた。だから惣斉さんんはあんなに焦って、緊急放送をさせようとした」
「その通り。パンツが盗まれた、というのはただの詭弁で、結梨に放送させるためのブラフ」
桜庭に小さな拍手を送る。
「惣斉は責任感の強い女だ。緊急放送をすれば追試が延期になり、惣斉自身が責任を負うこともなくなる。惣斉は自分の責務を守るため、結梨にそんなことを言った」
「……ああぁ~」
「そう……なんだ~」
「なるほど……」
納得を得ることが出来た。
「あとは俺から言っておく。皆は今日は帰ってくれ。これから惣斉に会ってくる。今日はありがとう皆、じゃあ解散」
「う、うん」
「ま、またね」
「佐久間さん、私も――」
桜庭が一歩前へ出た。
「いや、いい。惣斉の下には俺が一人で行く。皆で仲良く先に帰っててくれ」
「わ、分かりました……」
桜庭はすごすごと引き下がった。
佐久間は惣斉の下へと、向かった。
× × ×
俺は惣斉の下へと足を運んでいた。
今回の事件の真相を暴くために。
今回の事件の清算をするために。これは、俺が引き起こしてしまった事故でもある。
俺は俺の責務を果たさなければいけない。
体育館の裏を見てみるが、惣斉はいない。一体どこに行ったのか。
「惣斉」
しん、と静まり返っている。
「……」
俺は物陰になっている場所に足を延ばしてみた。
「……」
「こんな所にいたのか」
惣斉は物陰で誰にも見つからないように、ひっそりとしゃがみ込んでいた。
膝を抱え、うつむき、今にも何か自傷行為に走ってしまうんではないだろうかと、そういう風に見えた。
「惣斉」
「……」
「惣斉!」
「…………うるさい」
惣斉が顔をあげた。
「顔上げろよ」
「うるさいよ……」
「なんでこんな所にいるんだよ」
「別に、あんたに関係ないでしょ」
「関係はないが責任はある」
「……?」
惣斉は片眉を上げ、鬱陶しそうに佐久間を見た。
「結梨に放送してくれって言ったってな」
「別にいいでしょ」
「パンツ盗まれたのか?」
「…………」
惣斉は無言でうなずいた。
「お前は毎日パンツなんて学校に持ってきてるのか?」
「女の子の日常に顔突っ込まないで」
「変身でもする気か?」
「今そんな与太話に付き合う元気ないから……」
はあ、と惣斉はため息を吐いた。
「教室戻れよ」
「戻れない」
「なんで」
「言いたくない」
「戻れ」
「嫌だ」
「帰るぞ、惣斉」
「嫌」
惣斉は動かない。
「そんなに嫌なのか?」
「…………」
ついに、返事も止めた。
今度は、俺がため息を吐く番だった。
「適当なこと言って悪かったな。まさか俺のこれが関係してると思わなかったよ」
「……?」
惣斉は小首をかしげた。俺は惣斉に、持っていたカバンを手渡す。
「いや、なに?」
「やるよ」
「はあ?」
いらないし、と惣斉はカバンを押しのけた。
「お前のだよ」
「え…………?」
惣斉はぽかん、と口を開けた。
「まさか……!」
惣斉はカバンの中をあさる。
「…………!」
そして目を見開いた。
「あったああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
大声で、叫ぶ。
「こんなところで大声で叫ぶな」
「あった! あったあったあったあああぁぁぁ!」
そして惣斉は小さく何度もステップを踏んだ。
「もしかして佐久間! お前が!?」
「ああ、追試が始まる前だ」
「最高すぎ!」
惣斉が抱き着いてくる。
「でも、なんで……?」
そして上目遣いで見てくる。しおらしい惣斉もいいもんだ。
話は、惣斉が体育館に行く前にさかのぼる。
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